# 帽子屋が見た『アオイホノオ』~第5話
第5話「嗚呼、東京」
マンガ持ち込みの話、後編です。
[モユル]受付さん、明らかに「持ち込みの学生かよ、めんどうだな」という顔をしたね。少し上から目線で、実際は下からだが精神的には俺を上から見たね。
原作マンガにはないモユルの台詞。
すでに書いたように、このドラマは1980年という特定の時期を描くためにいろんな小道具などは実に忠実に再現されているわけですが、ここの台詞はいただけません。この時代
「上から目線」なんて言葉、絶対になかった
はずだからです。
「上から目線」がいつ頃から使われるようになったのか確実なデータはありませんが、少なくともこの時代には聞いたことまったくありません。
私が嫌いな言葉でもあり、全編のなかでもっともイカン場面だと思っています。
[きっちゃん]それこそ、『太陽にほえろ!』の長さんみたいな人か。 [モユル(心の声)]きっちゃん、するどいな。山さんだ。
「長さん」とは、下川辰平が演じた野崎太郎巡査部長のこと。「山さん」とは、露口茂が演じた山村精一警部補のこと。
どうでもいいんですが、『太陽にほえろ!』って、萩原健一とか松田優作とかの若手ばっかりが殉職して、もっと年輩のこの方たちはいつまでも生きてるっていうのが基本設定だったはずなのに、シリーズ終盤になって「山さん」も殉職しちゃうんですね。「長さん」は生きのびた。
ただし、それもモユルのこの時代よりもっとずっと後のこと。
[横山]女の子がかわいく描けてるよねー。
岡田斗司夫のメルマガによると、「女の子がかわいい」というのは当時のサンデー編集部としては、ちゃんとした褒め言葉だったんだそうです。
それから、持ち込み原稿をすごいスピードで読むってのは、だいたいどの編集さんでもそうみたいで、わりとよく知られていました。
■
[モユル]よし、集英社に行こう。
掲載誌の関係から、原作マンガで「小学館」という名前は当然のように使われていますが、集英社は「SA社」と書かれています。それでも、雑誌名「ジャンプ」は堂々と使っているので、伏せ字にも何にもなってません^^;
ちなみに、集英社も母体は小学館です(娯楽雑誌部門から分離独立)。ついでに言うと、白泉社は集英社から枝分かれした会社です。この辺の出版社を、業界では「一ツ橋グループ」と呼んでいます。千代田区一ツ橋に集中してるから。
一ツ橋グループと並ぶのが講談社系列で、文京区音羽に拠点を置くことから「音羽グループ」と通称されています。
江口寿史
たしかにパイレーツは面白かったですが、個人的には、同じ時期のチャンピオンの『マカロニほうれん荘』のほうが好きだったなー。
原作とはだいぶ違う服装ですが、これもなかなかいいですね。
[MADホーリィ]腹減ったろ。俺も食べるからさ、好きなもん頼んでいいよ。
たしかに、編集さんってよくご飯おごってくれました。もちろん、出版業界の景気が良かった時代の話です。
[MADホーリィ]夜ってのはさ、徹夜するためにあるんだよ。
これも、原作マンガより過激になってる台詞。
■
失意のモユルたちがこれから『ロッキー』を観る名画座。「スカラ座」という名前ですが、これ実は川越スカラ座ですね。
原作マンガでは、早稲田松竹で観たことになっています。
[きっちゃん]ロッキー1と2を同時上映か。
[モユル]500円かぁ。
今では考えられませんが、この当時の2番館はこういう値段が当たり前でした。いい時代だったなぁ。
[モユル]俺、ロッキーと同じだ。完全に東京に打ちのめされたんだ。まったく評価されないマンガを自分が描いていたなんて、気付いてなかったし、気付くたくもなかった。持ち込みなんて、しなきゃよかったんだ。
モユルが珍しく自分自身に向かい合う感動の場面のはずですが――
そのとき流れている画面はなんと、本物ではなく再現フィルム!
しかも、大阪芸大の学生たちの課題として上映される作品の再現度はかなり高いのに、本物と似ても似つかないこのフィルム(主人公の身体があんまり引き締まってないところは似てる気がしますが)。そして極めつけはこれ。
タリア・シャイアにまったく似ていない、どころか100%日本人にしか見えないこのコマ。第5話のクライマックスがこれですよ~。
■
なんでもないシーンですが、ここも好きなんですよね。
モユルの部屋、これ6畳間ですね。奥に見えてるのは、押し入れを開け放って物置だなにしてあるだけ。
6畳間だと、窓際に机、部屋の片側にカラーボックスやテレビ、反対側にベッドを置いて、真ん中にテーブルまで置いちゃうと、もう空いてるスペースはほとんどなくなります。そこへ、友だちが3人も来た日には、誰かがベッドに腰かけることになるし、こうやってベッドの上を歩いて出ていくことにもなる。
実に芸の細かい描写です。
このシーケンスは泣きますよ。
この直前でモユルは「アニメもだめ、マンガもだめ」と独白して涙を流すのですが、そっちより、直後のここが何といっても素晴らしい。
絶望のどん底。その気持ちをモノにぶつけたいけど、テーブル(こたつでしょう)をひっくり返そうとして思いとどまる。貴重なコレクションがある本棚に向かうけど、それをひっくり返したりなどできるはずもなく、逆に愛おしそうに本棚をなでる。そして、ようやく見つけた少年サンデーの山をぶちまける。
ここ、終盤のある場面に対する重要な伏線になってますから。
07:00 午後 映画・テレビアニメ・コミック・サブカル | URL
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コメント
>上から目線
自分も竹花さんのブログにコメントするときにこの言葉を使ったかもと思って確認したら「見下す」と言い換えてたので胸を撫で下ろしました(笑)(私自身はこの言葉がそこまでまずいとは思っていないのですが)
この回のサンデーを投げるシーンが全編を通じて一番泣けました。最後のほうにもっと派手に暴れるシーンがありますが、そこに至る過程の問題なのか、演出の問題なのか、いま一つ胸に迫るものがなかったです。
投稿: おじゃま丸 | 2015/01/12 15:07:29
> そこに至る過程の問題なのか、演出の問題なのか、いま一つ胸に迫るものがなかった
そうなんです。ラスト2回くらい演出がちょっと失速しますよね。
投稿: baldhatter | 2015/01/12 19:10:26