単語登録のコツ
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先日の翻訳環境研究会で、作業効率を上げる単純で効果的な方法として、単語登録のことを話題にしたところ、前エントリへのコメントも含めて、何人かの方から「単語登録のコツは何か」というご質問をいただきました。
たいしたことはしてないつもりですが、もしかしたら何かのヒントくらいにはなるかもしれないので、私がふだんやっている単語登録のことをご紹介しておきます。
研究会では、登録数が 1,500 件を超えているとお話ししましたが、後で確かめたら、すでに 2,000 件を超えていました。私が IT 翻訳に携わるようになってから蓄積してきた、これがいちばんの財産かもしれません。少なくとも、私の仕事環境で今いちばんなくなって困るデータは、まちがいなくこのカスタム変換辞書です(ちなみに、オンサイトのジョブに出かけるときは、辞書データを USB メモリーに入れて持参し、作業用 PC に読み込むことを許可してもらっています)。
ほかの分野はともかく、IT 翻訳で単語登録が有効なのは、ご存じのようにカタカナ用語の比率が高いからです。IT 分野で頻出する主なカタカナ用語が、たとえば元の文字数の 1/2 くらいの長さの読みで単語登録してあれば、それだけで入力作業は大幅に楽になります。楽になるだけでなく、カタカナ語の入力ミス防止にもなります。
ただし、あらかじめお断りしておかねばならない前提条件が 2 つあります。
・IME は ATOK です(単語登録については MS-IME でも大差ありませんが)。
・かな入力です(この点は大きな問題かもしれません)。
原則その1: 読みはあまり短くしない
原則その2: 有意な長さにする
原則その3: 読みと単語は一対一対応(後述の例外を除く)
単語登録というと、「あ」と入力して「アプリケーション」に変換、みたいな発想になりがちですが、そういう極端に短い読みは付けません。また、「あ」から「アプリケーション」にも「アップロード」にも変換されるという一対多対応にもしません。ある程度の長さ、具体的には単語の差異が生じるまでの長さで読みを付け、一対一対応させます。たとえば、こんな感じです(私の実際の辞書より)。
「あふら」→「アプライアンス」
「あふり」→「アプリケーション」
「あふろ」→「アップロード」
原則その4: 読みの付け方に自分のルールを決める
単語登録しても自分で読みを忘れてしまう、という話をよく聞きます。自分なりに読みのルールを決めておくと、おおよその見当で読みを思い出せるようになります。これには、入力方式とか自分の入力のクセとかも影響します。
私の場合はかな入力なので、キーボードで打ちにくいキー入力をできるだけ減らせるように、
・拗音(ゃゅょ)や促音(っ)を省く
・長音を省く
・濁音、半濁音を省く
という点がポイントになります。そうすれば、読みのルールも自ずと決まってきます。
「ゆさ」→「ユーザー」
「さは」→「サーバー」
「ひうし」→「表示」
などは、いずれも上記の原則で省入力を考えた結果です。ローマ字入力の場合には、ローマ字入力に応じた省入力というのがあると思います。私には判りませんけど。
原則その5: 頻出するフレーズもどんどん登録
IT 翻訳には定型表現も少なくないので、その手のフレーズもけっこう登録してあります。ドキュメントの種類によっては、これがかなり効率化に貢献しています。
「をさ」→「を参照してください」
「えらは」→「エラーが発生しました」
原則その6: 仕様への対応
IT 翻訳では、クライアント指定のスタイル(仕様)によって表記がばらばらなので、ある程度は単語登録でも対応します。
「ゆさ」→「ユーザー」、「ユーザ」どちらも登録(一対一にしない例外)
「いんた」→「インタフェース」
「いんたーふ」→「インターフェース」
「いんたふえ」→「インターフェイス」
このとき、ATOK のコメント機能が便利です。単語登録の内容に応じてコメントを追加しておけば変換候補ウィンドウで表示されるので、そこにクライアント名を書いておけば、「インターフェイス」≪マイクロソフト≫のように表示してくれます。
そのほかにも、熟語の場合は構成する漢字の頭をとる(「かよせ」→「可用性」)とか、「じょうたい」と入力して「状態」と「常体」を選ぶのが煩わしいので、あえて「つねたい」→「常体」のような自分勝手な読みを付けてしまうとか、丸括弧やカギカッコのような記号にも読みを付けてしまうとか、いくつか小ワザがあります。
いずれにしても、自分のためのカスタマイズですから、「自分にとっての省入力」にいちばん効果的な方法を考えるということがコツといえばコツでしょうか。あとは、面倒くさがらずに登録すること? 同じ単語を、たとえば 3 回以上入力するようならもう登録しちゃいます。
以上、ご参考になれば幸いです。
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» 日本語入力の工夫-入力の手練れとなる トラックバック Buckeye the Translator
先日「禿頭帽子屋の独語妄言 side TRADOS」に「単語登録のコツ」というエントリーがあがりました。私が工夫していることとかなりかぶるので、あちらも参照していただくということで、baldhatte... [続きを読む]
受信: 2010/06/28 8:36:58
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コメント
詳細なエントリ、ありがとうございます。長年の積み重ねがずっしり感じられる内容ですね。私はローマ字入力なんですが、いろいろなワザを参考にさせていただいて、自分なりのやり方を考えていきたいです。
自動車用語もカタカナが多いですし、顧客によって中黒がいるとか音引きがいらないとかいろいろあるのでATOK のコメント機能が便利そうです。また、医学系では普通では変換できないような熟語も多く、かといてジャストシステムさんの医療辞書まで買うのもなあと思うので、読みを変えて登録するのもイケそうです。
いろいろやってみるのが好きなのでワクワクしちゃいます。
投稿: テデスコ | 2010/06/23 23:45:12
> いろいろやってみるのが好きなので
はい、テデスコさんのブログを読んでいても、そのことは容易に想像がつきます^^
ちなみに最近、翻訳フォーラムでも ATOK の良さというのが改めて話題になり、「翻訳者の間では 15 年くらい前から常識」という話も出ていましたが、私の場合は Mac 時代から「ことえりじゃ使いものにならないので ATOK」というのが定番でした。
投稿: baldhatter | 2010/06/26 12:53:39
baldhatterさんはかな入力派なのですね。私はローマ字入力の方なので、英字1文字のみを利用することがよくあります。「kk」と打って「クリック」とか、「l」で中黒を出すとか・・。
仕事に関係ないけれど単語登録したいものは先頭にマーク (@や:など) をつけて登録しています。「@う」で「鶉」とか「@ね」で「☆⌒(*^-゜)b」とか。
かな入力の方がストロークが少ない分楽かもしれないと一時転向を試みたのですが、この英字1文字利用の単語登録の蓄積がネックになって結局ローマ字入力のままになりました。
投稿: 洒微 | 2010/06/26 22:56:24
> 単語登録したいものは先頭にマーク (@や:など) をつけて登録
ローマ字入力だと、逆にそういう登録のしかたができますね。かな入力だと、入力モードを変えずにキーボード上から打てる記号ってほとんどありません(@も:も、かなモードでは打てません)。
> かな入力の方がストロークが少ない
でも、ローマ字入力のほうが指の移動距離が短い(キー配列の 3 段分で済む)とも言われていますよね。私はたまたま、業務用ワープロをリースしているとき、せっかくだからかな入力を覚えようと考えたのがきっかけでした。
そー言えば、先日の大オフ会でドキュメントスキャンのデモを行ってくださった K さんは親指シフトでしたね。私も出版プロダクションに勤務していた頃、少しだけやってみました。慣れればあれが最速です。
投稿: baldhatter | 2010/06/27 12:47:17