# では、有料の辞書サイトだったらどこまでいける?
前回の記事、
の最後にまとめた総論をもう一度引用します。
無料で使える辞書サイトは―
・英英は◎ 学習レベルから一般レベルまで、無料サイトだけでも十分。
・英和・和英は× 無料サイトだけではどうにもなりません。
・国語は△ 大辞泉、大辞林は役に立ちますが、小型国語辞典は必要です
これでわかるように、英和・和英と国語を補完しなければなりません。
では、有料の辞書サイトまで広げてみたら、上記の不足分を補完して、翻訳者としていちおう恥ずかしくない
最低限の辞書環境を
そろえられるのでしょうか。そろえられるとしたら、
どのくらいの投資が必要
なのでしょうか。
有料の辞書サイト一覧
まず、有料の辞書サイトにどんなものがあるか、いくらかかるのかを一覧にしてみます。料金はすべて税込みです。
ジャパンナレッジ
JKパーソナル …… 16,500円/年
JKパーソナル+R …… 22,000円/年
※JAT、JTFの会員は2割引き
研究オンライン・ディクショナリー KOD
個人スタンダード …… 6,050 円/年
個人アドバンスト …… 12,100円/年
※
このほか、三省堂にも有料サイトはあるのですが、今年の9/30で終了になると発表されているので今回は除外しました。
DONGRI
辞書ごとに購入。1コンテンツあたり1,000円/年前後から。
三省堂デュアル・ディクショナリー
サイト自体は無料だが、書籍辞書の購入が必要
Oxford English Dictionary
$295/year
前々回の記事で詳しく書きました。
Merriam Webster Unabridged
$29.95/year
前回の記事で軽く触れています。
最後の2つは英英の一般辞典で、ここまでは要らないという人も多そうなので除外し、国内の辞書サービスに限って見ていくことにします。
なお、前回の無料サイトにはありませんでしたが、「専門辞典」というカテゴリーも加えています。有料サイトになると、専門系の辞書も充実してくるのが特長のひとつだからです。
詳しくは、コンテンツ一覧をご覧ください。アスタリスク*を付けたコンテンツは、「パーソナル+R」で使えます。
英和・和英辞典のラインアップ:
『ランダムハウス英和大辞典』
『プログレッシブ英和第5版、和英第4版』
『ビジネス技術実用英語辞典V6』(うんのさん)*
専門辞典のラインアップ:
研究社『理化学英和辞典』*
研究社『医学英和辞典』*
小学館『SPED理工系英和辞典』*
小学館『プログレッシブビジネス英語辞典』*
国語辞典のラインアップ:
小学館『日本国語大辞典第2版』
小学館『デジタル大辞泉』
小学館『デジタル大辞泉プラス』
ランダムハウスをオンラインで使えるのは、現在ここだけです。プログレッシブは、コトバンクより版が1つずつ上がっています。うんのさんは、パーソナル+R コースでないと使えませんが、オンライン版は更新が続いています。
このほか、+R にすると各種専門辞書がぐっと増えるので、6,000円弱の差額分の価値は十分あります。+Rで増える専門辞典のうち、『プログレッシブビジネス英語辞典』は、日向清人さんも執筆に加わっている名辞典の電子版です。
国語辞典は、日国を除くと無料のコトバンクと変わりません。日国は、あればもちろん便利なのですが、さらに上級向けという位置付け。ひとまず辞書をそろえたいというニーズから考えると、翻訳者必携というほどではないでしょう。
(帽子屋よりひと言)
残念ながら、総合的には文句なくトップランクと言えるジャパンナレッジも、こと英和・和英に関しては△です。英和・和英の拡充という目的だけ考えると、お薦めからやや外れてしまいます。国語辞典も一般的には十分ですが、翻訳者の用途を考えると、まだ△です。一方、専門辞典の充実ぶりは、他のサイトの追随を許しません。
アスタリスク*をつけたコンテンツは、「アドバンスト」で使えます。上のスクリーンショットで選択できないのがアドバンストのコンテンツです(私はスタンダード契約なので)。
英和・和英辞典のラインアップ:
研究社『新英和大辞典第6版』
研究社『新和英大辞典第5版』
研究社『リーダーズ第3版+プラス』
研究社『ルミナス英和・和英』
研究社『新編英和活用大辞典』*
専門辞典のラインアップ:
研究社『英和コンピュータ用語辞典』*
研究社『理化学英和辞典』*
研究社『医学英和辞典』*
国語辞典のラインアップ:
三省堂『スーパー大辞林3.0』
研究社『日本語表現活用辞典』*
研究社『類義語使い分け辞典』*
翻訳者必携の新英和・和英大辞典とリーダーズがオンラインで使えるのはここだけです。これだけでも、使う価値は十分。そのうえ、オンラインの特性を生かして、新語も定期的に追加されています(Oxford や Merriam Webster ほどの早さはありませんが)。
アドバンストコースにすると専門辞典が増える点はジャパンナレッジと同じですが、日英翻訳に欠かせない『新編英和活用大辞典』も使えるようになります。また、国語系も増えるのがKODの特長です。
『日本語表現活用辞典』は、こちらの書籍の電子版。
また、『類義語使い分け辞典』の元本はこれ。
(帽子屋よりひと言)
翻訳者必携の英和・和英をオンラインでそろえる、という条件だけ考えれば、KODは唯一の選択肢となります。こちらも、どうせならアドバンストにして専門辞典も利用できるようにするといいのかもしれません。
少し前に記事を書きました(# 辞書サービス「DONGRI」)。
辞書コンテンツを年間ライセンスで購入するタイプです。学習者(小中高生)がメインのターゲットなので、翻訳者ご用達のコンテンツは多くありません。
ただし、どこでも電子化されていない『現代国語例解辞典』があります。それも含めて、『明鏡国語辞典 第二版』と『新明解国語辞典 第七版』もあるので、オンラインで小型国語辞典を使いたいというニーズなら、ここしかありません。
『明鏡国語辞典 第二版』1,100円/年
『新明解国語辞典 第七版』980円/年
『現代国語例解辞典』980円/年
と、お値段も手頃です。『明鏡国語』の再現性もなかなかです。
サイト自体は無料で、
書籍辞書を購入すれば利用できる
という変わったサービスです。『ウィズダム英和辞典』のほかにもコンテンツはありますが(多くありません)、ウィズダムのためだけに利用しても十分に元が取れるサービスです。ちなみに、ウィズダムに関しては、第2版~第4版までそろっています。
(帽子屋よりひと言)
個人的には、ある意味、最も理想的な辞書サービスの形態だと思っています。学習英和辞典は、やはり紙で引きたいときが少なくありません。基本語などを集中的に読みたい場合などです。その一方で、オンラインの手軽さも捨てられない。その両方を満たしてくれるからです。『三省堂国語辞典 第七版』もぜひ収録してほしい。
以上が有料の辞書サイト。思いのほか少ない。ちなみに、英辞郎にもWeblioにも有料版はありますが、ちょっと趣旨が違うので今回も取り上げていません。
さて、無料で足りなかった分を、有料サイトで補完できたでしょうか。
●英和・和英辞典
まず選択肢になりそうなのは、KODのスタンダードでしょうか。6,050 円/年ですから、まだ初期投資が厳しい学習段階などでも手が届きそうです。ただし、三大英和のうち『ランダムハウス英和大辞典』と『ジーニアス英和大辞典』はあいかわらず欠けたままなので、翻訳者の辞書環境としては、ぎりぎり最低限です。
もう少し余裕があるなら、ジャパンナレッジのパーソナル+R なのですが、22,000円/年というのはかなり割高感があるでしょうか。他のヨーロッパ語もときどき扱うとか、いろいろな分野を相手にするので百科系が必要という方にはお薦めなのですが……。
学習英和は、ルミナスとプログレッシブばっかりです。ウィズダムの書籍版を買って、ぜひデュアル・ディクショナリーを使いましょう。
●国語辞典
有料まで広げても、一向にそろわないのが国語辞典です。どうも、世間的には中辞典とか大辞典があればいいだろうという認識なのでしょうか。
「辞書に限っては、大が小を兼ねない」というのは、出版社側として当然の常識のはずなのに、小型の国語辞典がどうも冷遇されています。そんななかで唯一DONGRIだけは、小型国語辞典が充実しています。『明鏡国語辞典』と『現代国語例解辞典』の2冊を使うためだけでも、利用する価値があります。
●専門辞典
専門辞典は、KODでもジャパンナレッジでも、上級コース(アドバンスト、+R)にしないと使えないようになっています。はなっから、専門辞典は投資の対象という前提のようです。
以上、前回と今回とで「無料と有料の辞書サイト」をまとめてご紹介しました。翻訳者として仕事をしていける辞書環境をそろえるには、やはりまだ足りません。
では、オンライン以外の辞書に、あとどのくらい投資すればいいのでしょうか。次の記事をお待ちください。
p.s.
個人的には、オンラインでどれだけそろったとしても、それだけで安心はできないと考えています。無料サイトは、明日いきなりサービスが終了しても文句が言えません。実際、『ランダムハウス英和大辞典』はしばらく前まで、無料のgoo辞書で使えましたが、何の予告もなく、いきなり消えてしまいました。
有料サイトでも、サービスの終了(今回の三省堂のように)もありますし、先方のサービスが落ちたり、最悪のシナリオとして自分のネット接続が不調になったりしたら、たちまち使えなくなってしまいます。
それでは、プロが使う道具
とは言えない、そんな気がします。