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2019.08.22

# 「英語辞典ナイト(昼)」(笑)、ついに開催!

JACET(大学英語教育学会)さんで、こんなイベントがあります。

JACET英語辞書研究会:「英和辞典を日本語から考える」
日時:2019年10月19日 (土)  13:00〜16:20
場所:早稲田大学11号館4階

情報は、こちら。
大学英語教育学会 英語辞書研究会
2019年度JACET英語辞書研究会:「英和辞典を日本語から考える」

または、こちらから。
日本語学会 学界消息(新着順)
JACET英語辞書研究会:「英和辞典を日本語から考える」

イベントって呼んじゃいけないのかな。学会ですしね。JACETさんの研究会、私も昨年の12月に英辞郎の話をさせていただきました(参考:# 英辞郎についてのセミナー)。

でもでも、です。今回はあえて「イベント」と呼びたくなるようなメンバーなわけですよ、これが。

なにしろ、セッションの内容が。

Part 1「英語辞書のヒトと国語辞書のヒトが見る「英和辞典」」 司会:小室夕里(中央大学)
 吉村由佳(『ウィズダム英和辞典』編集委員)
 見坊行徳(国語辞書マニア・校閲者)
Part 2 飯間浩明先生(国語辞典編纂者)ご講演 司会:大塚みさ(実践女子大学短期大学部)

ですからね(敬称略)。

吉村さんは、私の推し辞書ウィズダムの編集委員ですが、そのほかは、見坊さんと飯間さん。そう、国語辞典ナイトの常連おふたりです。

だから、裏タイトルとしては「国語辞典ナイト(昼)」(見坊さんの命名)。

もちろん、私もフェローが終わってから走ります。

03:19 午後 翻訳・英語・ことば 辞典・事典 | | コメント (0)

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2019.08.18

# 『そして、僕はOEDを読んだ』

本邦では、今野真二さんが『日本国語大辞典』を通読してこんな本を出されましたが、

その前に英語圏で話題になっていたのが、本書です。

著者のアモン・シェイは、Wikipedia英語版によれば著述家ということで、著作もほかに何冊かある(いずれも本邦未訳)のですが、詳しいことはよくわかりません。辞書を含めてたくさんの本に囲まれて暮らしていることだけは確かなようです。なにしろ、今野さんが本業のかたわら、約2年をかけて日国を読み切ったのに対して、OEDを1年で読んじゃったというのですから、そういう時間の使い方ができる立場ではあるようです。OEDだけでなく、Websterも第3版、第2版とも通読している。間違いなく変人。

翻訳したのは田村幸誠氏(本書刊行当時は滋賀大学准教授、現在は大阪大学准教授)。専業の翻訳者ではないようですが、本書の訳はなかなか素晴らしいと思います。



『『日本国語大辞典』を読む』のほうは、今野さんらしく学術的なアプローチですが、『そして、僕はOEDを読んだ』は、とにかく楽しく読めます。

序章の次からは、アルファベットA~Zの章立てになっていて、どの章も最初に自由な長さのエッセイがあり、続いて各アルファベットで筆者が取り上げた単語と語釈、コメントを載せるという体裁。

ただし、語義はOEDの記述そのものではなく、筆者によるもの。たとえば、Aの項の3つ目に出てくるのは Acnestis という名詞(見出しはすべて大文字始まりになっている)で、こう書かれています。

Acnestis(名詞)動物の肩から腰にかけての部分で、かこうと思っても手が届かないところ
OEDを読み始めてすぐにこの単語に出会えたことを非常に光栄に思う。名前なんて絶対にないと思っていたものを表す単語が実在していたことを知るのは、言い知れぬ喜びであり、俄然、辞書を読むという発想自体は、全く道理に外れたものではないと思わせてくれた。

著者がOEDを読み進めている最大の動機に触れている部分でもあります。原書では、語釈にあたる箇所はこうでした。

On an animal, the point of the back that lies between the shoulders and the lower back, which cannot be reached to be scratched.

実際のOEDではどうなっているかというとー

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That part of the back between the shoulder-blade and the loins which an animal cannot reach to scratch. と、辞書の定義文らしい文体になっています。

このacnestisという単語でわかるとおり、本書には「そんな意味を表す言葉があるのか~!」と驚き呆れるような単語が次々と登場します。柳瀬尚紀が『日本語は天才である』のなかで

日本語の豊かさを信頼していて、探せば必ずぴったりの語が見つかるという信念があるからです。

と書いているのにも通じます。

この著者も、そういう単語に出会うのが無上の喜びという人種のひとりというわけです。

そんな人のまわりには同類が集まっていて、友人として登場する「マデリン」は2万冊の辞書を持っている、しかもどこに何があるのかちゃんと把握しているんだとか。境田さんみたいな人が、英語圏にもやはりいるんですね。

 

ほかにも、こんな単語が載っているのは確かに楽しい、という例をいくつかご紹介してみます。

Mataeotechny(名詞)無益な、利便性のない科学、技能

原文だと"An unprofitable or useless science or skill" ですが、OEDの記述は"An unprofitable science"と、もっとあっさりしています。

 

Killcrop(名詞)空腹が収まらないがき、俗に、実の子と変えられた妖精と考えられたがき

これはかなりぶっ飛んでいます。OEDの語釈はこうです。

An insatiate brat, popularly supposed to be a fairy changeling substituted for the genuine child.

おー、チェンジリング(『ダンジョン飯』の7巻にも登場します)。用例として、ワシントン・アービングなども載っていました。

でも、実はこの単語、なんとリーダーズプラスにも載ってました。

―n. 《神隠しの》 取替え子 (changeling); 飽くことを知らない[貪欲な]子.

きっと、リーダーズの編集陣も、OEDを見ながら「この単語はおもしろい」と思って採用したんでしょうね。プラスはやっぱりおもしろい。ちなみに、これがわかったのは、EPWING化したOEDもリーダーズプラスも登録してあるEBWin4を使っているおかげです。

 

Onomatomania(名詞)適切な言葉が見つからなくていらいらしている状態

原文は"Vexation at having difficulty in finding the right word."ですが……ん? あれ? OEDでは、見出しになっているわけではないですね。

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onomato- という造語成分の説明中にありました。語釈は、著者の解説よりだいぶ難しい。

という風に、本書を読むのもおもしろいし、読んでからまたそれぞれの単語をOEDで、あるいはEBWin4上で引いてみるとさらに楽しい。

辞書という世界の楽しさを知ることのできる、とてもいい一冊でした。

 

なお、OED第2版は、私もCD-ROMで持っていて、それを大久保さんのおかげでEPWING化できたのですが、このCD-ROM版が今は入手しにくくなっているようです。

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09:34 午前 書籍・雑誌 辞典・事典 | | コメント (0)

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2019.08.01

# 「辞書のホントの使い方」、ちょっと詳しくご紹介

先日お伝えした翻訳フォーラム・レッスンシリーズ#14「辞書のホントの使い方」ですが、どんな内容になるのか、ちょっとだけ具体的にご紹介します。

本日時点で、すでに定員の3分の2くらい席が埋まっています。直前枠(9/20~)もありますが、なるべくお早めに^^

 

 

たとえば、5月のシンポジウムや先日の大阪でのセミナーで井口耕二さんが例に出した

millions of

は、いわゆる三大怪獣英和大辞典ではどうなっているでしょうか。

『研究社 新英和大辞典第6版』(以下、「新英和」)

3 [pl.] 多数, 無数. millions of books 無数の本.

『ランダムハウス英和大辞典 第2版』(以下、「RHD2」)

3 《millions》million で表される数量[額],100万台
▶ 100万以上10億未満:
His fortune was in the millions of dollars. 彼の財産は何百万ドルにものぼった.

『ジーニアス英和大辞典』(以下、「G大」)

[語法]
(1)数詞または数量詞がつく場合も -s をつけない( →hundred [語法](1)): two ~ 200万 / several ~ 数百万.
(2)端数のあるとき及び名詞を修飾するときも -s をつけない: six ~, three hundred and five thousand 630万5千.
5 [~s of ...] 何百万という…;((略式))非常に多数の…(→hundred 9)∥Fossil fuels are called nonrenewable resources because it takes millions of years to replace them. 化石燃料は回復するまで何百万年もかかるので回復不可能資源と呼ばれている. 

この例だけでも、三大怪獣英和の特徴がよくわかります。

「新英和」の売りは、「バランスのよさとピンポイントの精度」です。この3つのなかではいちばん情報量が少ない。にもかかわらず、millions ofの訳としては、不正確になる可能性がある「何百万の」ではなく「無数の」を載せている。この的確さが新英和です。だから、私は「ひとまず引く」ときにはまずここから引きます。

「RHD2」で目を引くのは、なんといっても「100万以上10億未満」という注釈でしょう。かつては専門用語の多さも身上のひとつでした。さすがに少し古くはなりましたが、今でも基本的な専門用語については頼りになります。それも含めて「語義分類と事実の解説の細かさ」がRHDの特長です。たとえば、他の辞書が5項目に分けている単語がRHD2では8項目というように、分け方が細かい。millions ofに対するこの注釈も、細かい解説の一例です。

「G大」では、他の大英和にない「語法」情報が光ります。ジーニアスは、学習用の『ジーニアス英和辞典』が先に編纂され(このとき、業界に先駆けて本格的にコーパスが使われました)、それをふくらませてG大が作られました。そのため、大英和でありながら、学習辞典のような情報が豊富に載っている。加算と不可算の記号を名詞すべてに付けているのも、G大だけです。

三大英和については、これだけ押さえておくだけでも、使い分けができるようになるはず。

次は、英英辞典のCOBUILD。

セキュリティの文脈でよく出てくる

vulnerability

という単語。語法に詳しいG大を見ても、[U] つまり不可算という情報しかありません。が、COBUILDを引いてみると、形容詞vulnerableの派生語として載っているだけですが、ちゃんと使い方がわかります。

少し古い版(DAYFILER搭載版など)だと、N-VARというラベルが付いています。最近の版(オンライン版)では、variable nounがこれに当たり、どちらも「基本的に不可算だけど、加算にもなる」名詞というラベルです。念のために、COBUILDの凡例(参考記事:# COBUILDの凡例はこちら)を見ると、こう説明されています。

N-VAR
A variable noun typically combines the behavior of both count and uncount nouns in the same sense (see N-COUNT, N-UNCOUNT). The singular form occurs freely both with and without determiners. Variable nouns also have a plural form, usually made by adding -s. Some variable nouns when used like uncount nouns refer to abstract things like hardship and technology, and when used like count nouns refer to individual examples or instances of that thing, e.g. Technology is changing fast ... They should be allowed to wait for cheaper technologies to be developed. Other refer to objects which can be mentioned either individually or generally, like potato and salad : you can talk about a potato, potatoes, or potato.

http://www.sanseido.biz/main/Dictionary/Hanrei/CobldEJ.aspxより、赤字は引用者)

語法については、最終的に英英の学習辞典も忘れずに確認したい、という例でした。

最後は、これも英英辞典ですが、版が変われば情報も変わるという話。

たぶんどの電子辞書端末にも入っているODEで、

compromise

という単語を引いてみてください。あ、動詞のところだけ見ればOKです。

ちなみに、カシオの電子辞書端末だと、ODEは今でも「改訂2版」のようです。DAYFILERの最終モデルあたりでは第3版が採用されています。あ、そうそう。ODEとOEDの違いはご存じですよね?

では、今度はオンライン版のOxford Dictionaries(https://www.lexico.com/en)でも引いてみて、内容を見比べてみてください。

語義の分け方なども変わっていますが、注目すべきはここです。オンライン版にしかありません。

3.1 Cause to become vulnerable or function less effectively.
‘yo-yo dieting can compromise your immune system’
‘last month's leak of source code will not compromise your IT security’

https://www.lexico.com/en/definition/compromiseより)

「危うくする」という元々の意味が、システムとかコンピューターなどについて使われるようになった用法です。「侵害する」とか「侵入する」と訳されることもありますが、まだ載っていない辞書がほとんどです。『リーダーズ第3版』には、「危殆化する」などという特殊な訳語が載っています。

これは、同じ辞書でも版が新しくなれば情報がどんどん変わるという例です。

 

いかがでしょうか。

ほんの2例だけですが、今回のセミナータイトルに付けた「大辞典・学習辞典・英英辞典はここを読め」という副題の意味を、ちょっとは感じてもらえたのではないかと思います。

ということで、

・具体例で、各辞典の主な特徴をつかむ

・各辞典の凡例を知る

・われらの味方「うんのさん」の用例を使いこなす

・無料で使えるEPWING辞書「WordNet」を使いこなす

・国語辞典で日本語を調べるとき、読み取るべき情報を知る

などなど、濃~い内容でお届けする予定です。

01:23 午後 翻訳・英語・ことば 辞典・事典 | | コメント (0)

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