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2019.06.13

# 今野真二『日本語が英語と出会うとき』

6月1日に開催されたトークイベント「来たるべき辞書のために」(ジャパンナレッジ主催)は、期待どおり、なかなか充実した内容でした。

といっても、「翻訳者が辞書を使う」という実用のうえで参考になるというより、やはりあくまでも「辞書というモノが好き」という人種向けだろうと思います。

この本も、その延長上にある感じで、翻訳者に即おすすめという内容ではありません。

もちろん、持参してちゃんとサインをもらってきました(仲介してくださったネットアドバンスのNさん、ありがとうございます!)。

 

本書『日本語が英語と出会うとき』は、幕末から大正あたりまでの英和辞典・和英辞典を、日本語学者である今野先生が、

日本語の側から

俯瞰した内容です。

英和・和英という二国語対照辞典(ときには、英中和、仏英和のような三言語)において、それぞれの時代にコンテンポラリーだった日本語がどう選択され、解釈され、表記されてきたか、という視点で書かれています。つまり、あくまでも辞典という世界で展開される日本語がテーマなわけで、だからこそ、本書のタイトルは

日本語英語が出会う

ではなく

日本語英語と出会う

なわけです。

そういう視点でいろいろな辞書を読み解いていくと、たとえば日本最初の英和辞典と言われている『英和対訳袖珍辞書』について、こんな記述が出てきます。

つまり、『英和対訳袖珍辞書』初版の時点で、すでに「具体性の付与」「現代的」「ストレート/シンプル」ということがいわば意識されていたことになる。

この辺のくだりは、なかなかスリリング。

また、当時の日本語に関する「類義」語意識、明治期独特の「漢字」の使われ方と変遷、幕末から明治期の印刷事情などについても知ることができます。

1924年刊の『スタンダード和英大辞典』(宝文館)では、前書きに今で言うコーパス活用のような表現が出てくるとか、同辞典の巻末では早くも「ジャパニーズイングリッシュ」を嘆く声が現れているとか、そんなエピソードも楽しい。

本書に出てくる英和・和英(その他)辞典は、おおむね以下のとおりです(編纂に参照された辞典などは載せていません)。

『波留麻和解』1796年
『訳鍵』1810年
  『改正増補 訳鍵』
『暗厄利亜語林大成』1814年
『増訂 華英通語』1860年
『英和対訳袖珍辞書』1862年
  『改正増補 英和対訳袖珍辞書』1866年、67年、69年
  『改正増補 和訳英辞書』1869年
  『英和対訳辞書』1872年

『英和・和英語彙』1830年
  『英語箋』1857年、63年
『永峰秀樹訓訳 華英字典』1881年
『仏英和辞書』1866年

『袖珍英和節用集』1871年
『西洋画引節用集』1872年
『本朝辞源』1871年
『以呂波/字引 和英節用』1885年
『附音/挿畫 英和玉篇』1886年

『和英語林集成』1867年
  『改正増補 和英英和語林集成』

『英華字典』1869年
  『訂増 英華字典』1883年
『英華和訳字典』1879年
『英和字典』1872年
『英和双解字典』1885年

『附音挿図 英和辞彙 初版』1873年
  『附音挿図 英和辞彙 第二版』1882年

『和英/両訓 伊呂波字引』1882年
『和英大辞典』1896年
『和訳英語聯珠』1873年
『英和和英 辞彙大全』1885年
『和英対訳 いろは字典』1885年
大槻文彦『英和大辞典』原稿
『井上 英和大辞典』1915年
『新訳和英辞典』1909年
『武信和英大辞典』1918年
  『研究社 新和英大辞典 第二版』1931年
  『研究社 新和英大辞典 第三版』(勝俣銓吉郎)1954年
『冨山房 大英和辞典』
『研究社 新英和大辞典』
『新案/記憶式 和漢英活用字典』1920年
『井上 和英大辞典』1921年
『スタンダード和英大辞典』1924年
『模範英和辞典』1911年
  『模範新英和大辞典』1919年

インデントしてあるのは、同辞書の版違いで、そこに意味がある場合です。

今から見れば、まあ「骨董」的な辞書の話ですが、最後のほうでは、私たちが直接知っている『研究社新和英』とのつながりも見えてきます。

ただし、本書で扱われているのは最新でも大正あたりまでです。つまり、「日本語が英語と出会うとき」に起きる化学作用というのは、たぶんその辺でほぼ落ち着いたということ、あるいはそこから先は別の視点が必要になるということかもしれません。

ちなみに、Amazonのカスタマーレビューには「書名が内容と一致していない。明治、大正、昭和におよぶ150年の発展過程の概観を期待して購入するとガッカリ」という趣旨の声がありますが、本書に登場するのは、上にあげたように1796年の『波留麻和解』から1954年の『研究社 新和英大辞典 第三版』まで。その間は158年なので、けっして書名に偽りがあるわけではありません。

10:36 午前 書籍・雑誌 翻訳・英語・ことば |

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