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2019.06.28

# sexual orientationは「性的指向」

あるSNSの利用規約についての翻訳がきっかけで、

sexual orientation

という用語の訳語を調べてみました。

まず参考として見つけたのが、こちらの記事です。

リンク:ヨミドクター:虹色百話~性的マイノリティーへの招待 第5話 性は3つの組み合わせ

やや長くなりますが、引用します。

なお、sexual orientationに性的指向の日本語をあてたのは、学者でも研究機関でもなく、1990年代に「府中青年の家裁判」を提起したアカーという当事者団体です(現、特定非営利活動法人動くゲイとレズビアンの会)。同性愛は個人の趣味や嗜好しこうと言われていた時代に(現在でもその誤解は遍在していますが)、「気づいたら、自分は同性に意識が向いていた」「選んだわけじゃない」というorientationがもつニュアンスを出すために、嗜好でも志向でもない「指向」が選択されました。その点を取材に来た記者にさんざん説明したにもかかわらず、デスクや校閲で「性的嗜好」や「性的志向」に直されて紙面に出て悔しい思いをしたことも、数かぎりないといいます。

これに続いて、『広辞苑』では第六版に「性的指向」が載ったと書かれていたので、まず確かめてみます。

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(クリックで拡大します)

たしかに、「嗜好」でも「志向」でもなく、「指向」となっていますね。「嗜好」がふさわしくないのは明らかだとして、「志向」か「指向」はなかなか難しい。今回、この問題には立ち入らないことにします。

ちなみに、これはPASORAMA(DF-X10000改)で引いた画面。『広辞苑第六版』は、これか、SIIの「語句楽辞典」しかないんですよ、手元。EPWING版かLogoVista版、あるうちに買っとけばよかった……。

さて、上の画面には、広辞苑のほかに研究社和英大もヒットしています。そちらの表記は

性的指向[志向]

となっています。

ほかの辞書の表記はどうなっているのか、おもしろかったので調べてみました。

結論を先に書いちゃうと、どうやら「性的指向」の表記に対応できている辞書は、まだ少ないようです。

以下、「指向」になっているものは赤字で示しました。独立見出し、成句、用例のどの扱いになっているかの違いは示していません。

まず、大辞典から。

sexual orientation [preference]
性的志向[嗜好()] 《同性愛志向・異性愛志向などの》【新英和大6】

~ orientation
(同性・異性・両性愛志向などの)性愛的志向.【G大】 

sexual orientation
性的志向[方向性] 《同性愛志向・異性愛志向などの》【R2、R3】 

one's sexual orientation
性的指向[志向, 嗜好]【うんのV5、V6】 
one's sexual orientation
性指向[志向, 嗜好] 【うんのV4】 

刊行の時期を考えれば『新英和大6』と『ジーニアス英和大』はしかたがないとして、『リーダーズ』が第3版(2013年)でも対応していなかったのは惜しい。RHD2は、全文検索しても引っかかりませんでした。

うんのさんが(V5から)、とりあえず全部並べてあるのは、どんな意図なのでしょうか。今度お会いしたら聞いてみたい気がします。

 

次は中辞典クラスです。

sexual orientation
性的志向[嗜好] 《特に 異性愛か同性愛かの》.【研究社英和中7】

~ orientation [preference]
同性愛・異性愛などの 性的志向. 【ウィズダム4】
~ orientation
性的志向 【オーレックス】
~ orientation [preference]
(異性愛か同性愛かなどについて)性的志向[嗜好]【ルミナス、オーレックス】

sexual orientation
性的指向(せいてきしこう )【EDICT2】

sexual orientation
性的指向◆性的嗜好ではない。【英辞郎v144】

sexual orientation
性的指向 【ライフサイエンス】

学習辞典の多くが preference を併記してあるところ、どうなんでしょうね。特にウィズダム4とオーレックスは、発売時期を考えるとちょっと残念です。

英辞郎って、こういうところはさすがと言えるのかもしれません。ライフサイエンスはデータが新しく、専門でもあるので当然として、おもしろいのはEDICT2ですね。

ちなみに、EBWin4の最新版は、お試しデータとしてEDICT2がセットになっています。

 

次は、オンライン版です。

sexual orientation
[名][U] 性的指向 《特に 異性愛か同性愛かの》. 【英和中 on KOD】

KODのこれ、注目です。上のほうで、中辞典クラスのトップとして『研究社英和中7』の「志向」を載せましたが、これは私の手元にあるバージョンでした。それが、KODだと「指向」になってるんですよね。こういうところ、オンライン辞書の強みでしょう。

 

最後に、前掲の広辞苑を除く国語辞典はどうでしょう……と思いましたが、そもそも立項している辞書が少ないですね。

せいてきしこう —しかう 【性的指向
性的な欲求・感情・行為といった性愛がどういう対象に向かうのかを示す概念。対象が異性に向かうヘテロセクシュアル、同性に向かうホモセクシュアル、男女両方に向かうバイセクシュアルなど。セクシュアル-オリエンテーション。→ヘテロセクシュアル・ホモセクシュアル・バイセクシュアル 【大辞林 三】

9月に第四版が出るということで話題になっている大辞林はさすがです。大辞泉は、デジタルも含めて載っていないようです。

 

ところで、「国語辞典を引く」というときには和英辞典も候補になるわけですが、『研究社和英大 第5版』の収録状況がおもしろいことになっていました。

手元にあるデータのうち、収録内容がはっきりわかっているのは、2004年のEPWING版だけです。

このディスクに収録されている内容は, 『新和英大辞典』第 5 版(見出し語・複合語約 23 万, 用例約 25 万)に見出し語・複合語約 2000 を追加したのをはじめとする若干の改訂を行なったものになっています.
同じ5版でも、LogoVistaのデータは2003年の書籍版と同じ「まえがき」があるだけで、実際の内容がどうなっているか確認できません。こういうところもLogoVistaの残念なところです。

そのEPWING版には「性的指向」は載っていないのですが、冒頭に示したように、DF-X10000改には載っています。併記ですあるものの、「指向」が先。

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DF-X10001は、本体を見ても収録データについての説明がない。これもダメなところですね。まだ残っている製品紹介ページに情報がありました。

「新和英大辞典 第五版」の収録項目48万に最新の4万項目を追加各分野の専門語から、新語、時事語、カタカナ語、IT関連語をはじめ、世相を反映した流行語、地名、人名、作品名などを豊富に収録した日本最高最大の和英辞典。第5版刊行(2003年)後の追加語彙約4万項目を合体して、さらに使い勝手を増しました。

EPWING版より、かなり増えているようです。

……ってことは、DF-X10000改に入っているのと同じ和英大データは、もう手に入らないってことか? うーん、これは困るではないか!

また、KODもデータが新しくなっています。この辺を考えると、KODはやはりけっこう利用価値が高いんですね。

ということで、こういう新語については、辞書ごとに扱うが違うだけでなく、同じ辞書でもバージョンによってちょっとずつ変わっている。こういうところも気をつけないといけないわけでした。

01:17 午後 |

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