なお、以下の記事のうち書誌的な情報については、関山先生の『英語辞書マイスターへの道』の読者特典冊子
「2018年度版 英語の辞書へのアプローチ」
からも情報を補足しました。この冊子、今回のセミナーでも参加者特典としてダウンロード提供してくださいました。この日に参加できなかった方や、冊子PDFをダウンロードしそこねた方は、このブログで以下の記事を参照してください。
side A: # 『英語辞書マイスターへの道』、翻訳者にもおすすめ

●辞書の収録語数は、数え方に注意!
日本の英和辞典は、語形変化形や句動詞もすべてカウントしているので、実際には、ずっと少なくなります。
たとえば、関山先生が編集委員を務めた『ベーシックジーニアス英和 第2版』は、公称55,000。実際の主見出しは、半分ちょっと。
海外の英英辞書になると、語義の数でカウントするので、さらに実数との差が開くそうです。たとえば、OALD 7th は公称約183,500語、G5は約90,000語だが、実際にそこまで差があるわけではありません。
そういえば、この辞書に関するエピソード紹介もありました。
表紙(男の子と女の子)とか、挿絵とか、教育的配慮のための苦労がかなりあったそうです。たとえば、冒頭にある「ピクチャー・ディクショナリー」というコーナー、最初の見開き(pp.4~5)は
What is in your bag?
というページなのですが、「高校生の男女としてふさわしい持ちもの」じゃなければダメと、いろいろ指導が入ったと。

ちなみに、この辞書、昨年の翻訳祭にご登壇くださったとき、関山先生ご自身からいただきました。いいでしょ^^
●PASORAMAモデルの単体としての使い方
私も辞書セミナーではよく紹介しますが、SIIからかつて出ていたPASORAMA機能対応の電子辞書端末、中古でまだまだ手に入るというご紹介がありました。
そのうえで、「PASORAMAでは使えず、端末でだけ使える機能」の説明。これは衝撃的でした。私ほんと、端末としては使っていないんだなぁ。
この点については、書いていたら膨らんできちゃったので、エントリを改めることにします。
●英英辞典 - COBUILD
COBUILDは、2nd、3rdがおすすめとのこと。
●英英辞典 - 子ども向け英英
非ネイティブ向けの学習英英(OALD、LDOCEなど)がよく推奨される一方、ネイティブ子ども向けの辞典はあまり推奨されません。が、関山先生によると、これも用途によってはなかなか有益とのこと。一例として ear の語義が挙げられました。
先生がすすめられていたのは Merriam Webster Elementary Dictionary でしたが、私もちょっと引き比べてみました。比喩的な語義は除外しています。
1 [C] either of the organs on the sides of the head that you hear with:
4 [C] the top part of a grain plant, such as wheat, that contains the seeds: 【OALD8】
1 part of your body [countable] one of the organs on either side of your head that you hear with:
2 grain [countable] the top part of a plant such as wheat that produces grain 【LDOCE5】
1 a : the characteristic vertebrate organ of hearing and equilibrium consisting in the typical mammal of a sound-collecting outer ear separated by the tympanic membrane from a sound-transmitting middle ear that in turn is separated from a sensory inner ear by membranous fenestrae b : any of various organs (as of a fish) capable of detecting vibratory motion
2 : the external ear of humans and most mammals 【MW Collegiate 11th】
※穀物について言う語義は別項目扱い
1 : the organ of hearing and balance of vertebrates that in most mammals is made up of an outer part that collects sound, a middle part that carries sound, and an inner part that receives sound and sends nerve signals to the brain
2 : the outer part of the ear 【MW Dictionary for Children】
※穀物について言う語義は別項目扱い
赤字の部分に注目してください。①平衡器官である、②耳殻、耳たぶにあたる部分もearという、この2つの情報が、Merriam WebsterのCollegiateに書かれいるのは当然として、Dictionary for Childrenにもちゃんと載っている。一方、非ネイティブ向け学習英英には載っていない。
事物を引くときは、子ども向けの辞書から入ってみるべきかもしれません。これは、まったくの盲点でした。
ちなみに、各種国語辞典で「耳」の語釈がどうなっているのか、引き比べてみるのも一興かと思います。
●英英の類語辞典
Longman Language Activator, 2nd
※Amazonのデータでは1stとなっていますが、1stは1993年なので、2002年のほうは、「2018年度版 英語の辞書へのアプローチ」にあるとおり第2版のはずです。
フレーズ単位で、類書より口語的なのが特長とのこと。
CD-ROM版を買うと入っています。
ただし、書籍版と内容がどこまで同じか私は確認できません。このCD-ROMは、Logophileにも登録できるバージョンです。類語情報はLogophile上でも見ることができますが、Activatorとしての使い方はできません。
Oxford Learner's Wordfinder Dictionary
類語辞典というより、
基本的なキーワードを見出し語にして、その後に関する表現や関連語を従来のシソーラスよりも幅広く載せています
(「2018年度版 英語の辞書へのアプローチ」より)
だということです。私も取り寄せ中。
Longman Lexicon of Contemporary English
セミナー中にAmazonで中古価格が急騰したのがこれ。たぶん、最初500~600円前後だったのが、最終的には4,000円ほどになったようです。
語彙のカテゴリー分けが、類語辞典初心者でも分かりやすく、もちろん索引から単語で引くこともできます。カテゴリーごとの語彙増強や英文ライティングに役立つのはもちろん、英和方向でも活用できそうです。
たとえば、私がいつも挙げるexcitingだったら、まず索引で exciting を引き、そこからカテゴリー F225 を見ると、
F225 adjective interesting and exciting
という項があって、interesting、absorbing、exciting、thrilling、sensational、exhilarating、breathtaking と単語が載っています。
また、そのすぐ次の項目は
F226 adjective interested and excited
という関連項目になっていて、interested、excited、frantic、thrilled、exhilarated、fenzied、keen、eager、enthusiactic、zealous、aradent、avid、desirousと並んでいます。もちろん、すべて例文付き。
つまり、似た言葉の違いを調べるのではなく、似ている語のグルーピングから手がかりを得るという使い方ができるということです。
関山先生によると、カシオの電子辞書端末に収録されているということなのですが、私は確認できていません。
●『広辞苑』 が権威になったのはなぜ?
いきなりこの質問を振られ、思わず、会場にいた西練馬さんにも振ってしまいました^^
先生によると、百科事典項目を初めて採用したからではないか、とのこと。その背景には、OECやCODといった英国流からの脱却と、Merriam Websterなどの米国流の影響があったのではないか、ということです。
ちなみに、昨日この件を川月現大さんにしたら、別の説をお持ちでした。川月さん曰く、「初版および改版時に、当時の各分野専門家をかき集めたからじゃないか。だから、知識人はみんな自然と岩波びいきになった」と。これも、なかなか説得力がありました。
●国語系でおすすめの辞書
現古辞典 (河出文庫、Kindle版もあり)
これも、セミナー中にけっこう売れたようですが、在庫があるので中古価格高騰という事態には至らなかったようです。
大和ことば辞典(東京堂書店)
●辞書編纂の現状
「若手のレキシコグラファーが不足している」とのこと。原因はいろいろあり、なかなか明るい要素はなさそうでした。
・「辞書学会」というものがない。辞書の編纂は、出版社ベースでしか進められないため、学会のような単位で横断的に辞書のことが話し合われる場がほぼない(あるのは、岩崎研究会のような規模どまり)。
・大学院生の就職事情。教員と学生の関係が変化していて、「下積み」の機会が減っているせいもある?
・業績として評価されない。紀要論文1本より評価が低い。
辞書、翻訳書 < 教科書 < 論文
●辞書メディアの変化
定期的な改訂作業ができる辞書はごく一部で、新規の辞書企画はほぼ皆無に近い現状。
なにより、「情報はタダで得る」のがあたりまえという世情。この辺は、翻訳者としても考えさせられる要因です。
辞書を使わなくても高校を卒業できるし、大学に入れるということを、嘆いておられました。
そんななかで、辞書の研究と編纂に携わることの自負を、先生は最後に語ってくださいました。柔らかい口調はあいかわらずでしたが、最後にとても力強いメッセージをいただいたように思います。
最近のコメント