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2018.02.12

# 辞書は、かならず版と発行年を確認して使おう

この1月に『広辞苑』の新版が出て、いろいろと話題になっています。今回が第七版だということも、だいぶ知られているでしょう。

ちなみに、『広辞苑』の最近の発行年はこうでした。

1991年 第四版
1998年 第五版
2008年 第六版
2018年 第七版

大ざっぱに言うと、最近は10年周期で改訂されてきたことになります。


英語でも国語でも、辞書は

発行年

版(バージョン)

を確認したうえで使うというのが、基本中の基本です。

しかも、私たち翻訳者は電子データを使うことが多いので、

書籍版と電子版の違い

電子辞書などでの収録状況

まで把握しておかないと、それぞれの辞書を十分には使いこせないことになります。そんな例をいくつか紹介します。


最初に取り上げるのは、『明鏡国語辞典』(大修館書店)です。

「明鏡」の発行年度と版は次のとおり。

2002年 第一版
2010年 第二版

では、みなさん、お手元の「明鏡」はどちらだか把握していますか?

LogoVista版をお使いであれば、まず第二版です。

カシオの電子辞書、この5年くらいの製品であれば、これもおそらく第二版でしょう。

セイコーインスツル(SII)のDAYFILERシリーズなどは……、これが意外なことに第一版なんですね。

このように、電子辞書端末などのプラットフォームの場合、製品の発売時期と、収録コンテンツの版が必ずしも比例しないことがあります。

たとえばOxford Thesaurus of Englishは、第3版(2009)が最新ですが、カシオの製品では、この2月に出る最新モデルに至るまで、なぜか第2版のままです。こういうところにも、注意が必要ということになります。


さて、その「明鏡」で奇特という単語を引いてみてください。版によって記述が違うはずです。


《名・形動》 行いや心がけがまれに見るほどすぐれていること。殊勝。きどく。「今時―な人もあるものだ」 [派生]‐さ 【明鏡】

《名・形動》 行いや心がけがまれに見るほどすぐれていること。殊勝。きどく。 「今時━な人もあるものだ」
[注意]近年、「こんなものを買うなんて奇特なやつだ」など、風変わりの意でも使われるが、誤り。 [派生]‐さ 【明鏡二】
(赤字は引用者)


第二版では、最近の使われ方を載せたうえで、それを誤りと断じています。

「明鏡」はこのように「誤り」と断じることが多い辞書です。「奇特」の新しい使い方を、たとえば『三省堂国語辞典 第七版』は、〔俗〕というラベルを付けて示すだけで、「誤り」とは指摘していません。

※『明鏡国語辞典 第二版』で「誤り。」を全文検索すると、557件もヒットします。参考までに、『岩波国語辞典 第七版』では41件、『新明解国語辞典 第七版』では21件にとどまっています。ほかの言い方で指摘しているケースもあるとは思いますが、傾向は明らかです。

「明鏡」の誤り指摘はいきすぎ、という指摘もあります。しかし、翻訳しているときには正用・誤用についてわりと保守寄りのほうが無難なことも多いので、そういう拠り所として「明鏡」は便利です。

次は、『ランダムハウス英和大辞典 第二版』(以下、「RHD2」)です。実は、私も今日まで気づいていなかったのですが、RHD2は、

書籍版と(私たちがいま使っているほとんどの)電子版

とで内容が同じではありません。


お手元のRHD2で、memeを引いてみてください。

おそらく、《インターネット》というラベルが付いているはずです。

1802112
これがDF-X10001の画面。

1802114
こちらは、ジャパンナレッジ収録のRHD2。


RHD2の発行年は1993年ですから、常識的に考えると、このラベルが付くにはちょっと早すぎます(たとえば、『データパル』では1998年版に「インターネット」あり)。


ということで書籍版を確認してみると、meme という単語そのものが載っていないことが分かりました。
※私の手元には今ないので、お持ちの方にご協力いただきました m(__)m

念のために、RHD2の製品ヘルプを見てみると、

ランダムハウス英語辞典 (Windows版)
1998年11月26日 Version 1.0 発行
2002年11月29日 Version 1.5 発行

と書籍版より新しく、またReadmeには

この度は、『ランダムハウス英語辞典』をご購入頂きましてありがとうございます。 『ランダムハウス英語辞典』は、「ランダムハウス英和大辞典」(第2版)を原典とした、最新の英語辞典です。

と書いてありました。

関山先生によると、やはり電子化の段階で、「コンピュータ関係の新語を増補したはず」だということです。


三大英和大辞典の発行年度は、古い順から並べると

1993年 ランダムハウス英和大辞典 第二版
2001年 ジーニアス英和大辞典
2002年 研究社 新英和大辞典 第6版

なので、「ランダムハウスはちょっと古い」という判断になりますが、一部の語彙については必ずしもそうではない、ということになるわけです。


ちなみに、先ほど引いたmeme。

もともとは、言うまでもなくRichard Dawkinsの学説に由来する言葉ですが、最近インターネット上で使われる「ミーム」には、かなり違う意味があります。かなり新しい辞書でないと載っていないかもしれません。

2.
a. An image or short video clip, often accompanied by a humorous saying or popular catchphrase, that is transmitted virally, especially on social media.
b. A humorous saying or popular catchphrase that is transmitted virally, especially as a caption for such an image or video clip. 【AHD】

など、主なオンライン英英には載っています。

2) インターネット上で拡散する画像[動画など].【R3】

さすがに『リーダーズ 第3版』は間に合ったようです。

改訂周期の短い学習英和のうち、『ウィズダム 第3版』(2012)は間に合っていませんが、『オーレックス 第2版』(2013)には載っています。タッチの差ですね。


このように、辞書の版と発行年を再確認するには、自分の持っている辞書をときどき総ざらえするといいかもしれません。私も今回、やってみました。

1802111

こんな感じです。

以上、「発行年と版を知っておくことが大切」という話でした。ところが、そのわりに、カシオや、かつてのSII、あるいはLogoVistaなどでも、発行年や版についての情報が示されていないことがあるのは、辞書を扱うという観点から、なんとも残念です。

12:08 午前 翻訳・英語・ことば 辞典・事典 |

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