# 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 ―
いま、日本人全員に読んでほしい本。
それはありえないとして、少なくとも
教育に携わっている者
は全員必修。そして、翻訳者も含め
ことばに携わっている者
にも、準必修のはずだ。
目次
第1章 MARCHに合格―AIはライバル
AIとシンギュラリティ
偏差値57・1 ほか
第2章 桜散る―シンギュラリティはSF
読解力と常識の壁―詰め込み教育の失敗
意味を理解しないAI ほか
第3章 教科書が読めない―全国読解力調査
人間は「AIにできない仕事」ができるか?
数学ができないのか、問題文を理解していないのか?―大学生数学基本調査 ほか
第4章 最悪のシナリオ
AIに分断されるホワイトカラー
企業が消えていく ほか
(Amazonより)
この本の趣旨はいたってシンプルだ。
AI は人類にとって神になったり脅威になったりはしないし、シンギュラリティも到来しない。だが、AI が人間の仕事の多くを代替する社会はすぐそこまで迫っている。「AI に代替されない新しい労働の需要も生まれる」という楽観論は多いが、筆者はそれに与しない。なぜなら、「AI に代替されない仕事」に、いまの日本人の多くは就けないかもしれないからだ――
本書は、AI の歴史も振り返りながら、AI という用語に関する誤解、AI の実力と限界を解き明かし、シンギュラリティが到来しないと言える根拠を数学者として提示する。そのうえで「AI は基本的に『読解』ができない」「AI は意味を理解しない」という大前提を導き出す。ところが、いまの中高生、ひいては日本人の大半が、
AI に対処できない仕事は残るし、新たに生まれて来るだろうが、
現代日本の労働力の質は、実力をつけてきたAIの労働力の質にとても似て
おり、それはつまり
AI では対処できない新しい仕事は、多くの人間にとっても苦手な仕事である可能性が非常に高い
のだという。
その可能性を端的に表しているのが、「中高校生の実に多くが、AI 並みの読解力すら持ち合わせていない」という調査結果で、これは2016年頃からあちこちのニュースで話題になった。
この調査「リーディングスキルテスト(RST)」の手法についても本書では詳しく説明してあるだけに、読んでいて本当に背筋が寒くなる。
AI が進化して人間を超えるという未来は来ないかわりに、人間のほうが退化し始めている。この現状はもっともっと周知されるべきであり、少なくとも教育関係者は100%、筆者の説く危機感を共有すべきである。そして、この問題には国を挙げて早急に対策しなければならない。
本書は、書籍でもKindleでもいいので、ひとりでも多くの人に読んでもらいたい。なぜなら、
この本の印税は1円も受け取らないことに決めました。2018年度からRSTを提供する社団法人「教育のための科学研究所」に全額が寄附されます。それを原資としてリーディングスキルテストのシステムを構築し、問題を作ることで、一人でも多くの中学1年生が無償でテストを受けられるようにします。
ということだからだ。
「教育のための科学研究所」というのは、著者の新井紀子氏が設立した一般社団法人である。
本論も実に衝撃的だが、
AI とAI 技術は違う。AI はまだどこにも存在しない
「ビッグデータ」という語も、人々の幻想を生んでいる
日米でのAI に対する姿勢の違い ~ 第五世代コンピュータの負の遺産
読解に必要な「係り受け解析」「照応解決」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定」
3つの経済原則「一物一価」「情報の非対称性」「需要と供給」
デジタルとは「同時に多数の人々が情報を共有するための仕組み」
などなど、重要なキーワードとフレーズが次々と出現し、「AI のいま」を知るにも(私たち素人には)ちょうど手頃だ。
ちなみに、本書と併せて(できれば、本書より前に)、こちらも読んでおくといいだろう。
こちらの著者、川添愛氏の名前は、「教科書が読めない~」にも登場する。
◆
私たち翻訳者も、この現状を冷静に受け止めなければならない。翻訳者にとって、これからの脅威は機械翻訳そのものではない。読み手の大半が満足な読解力を持たなくなり、まして文章の良し悪しなどは評価しなくなることだ。そして、機械翻訳なみの文章が日本語の標準になってしまう―。
「これまでも、日本語は時代とともに変わってきたのだから」などと呑気に構えていられる変化では、おそらくないだろう。文化現象を担う器としての言語ではなくなってしまうのではないか、というほどの危機だ。
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コメント
先日、その話題が、Yahooニュースの「江川紹子あれやこれや」に出ていました。
◆大事なのは「読む」力だ!~4万人の読解力テストで判明した問題を新井紀子・国立情報学研究所教授に聞く
江川紹子 | ジャーナリスト
2018年2月11日(日) 23:16
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20180211-00081509/
日本語の読解力が大切であることに異論は持ちませんが、
ここに上げられている「リーディングスキルテスト(RST)」の例題は、日本語としてことさら分かりにくい、誤解を招きやすい表現になっている点が、不公正ではないかという気がしています。
というのは、たぶんこれは英語系統の言語からの翻訳文ですよね。
普通に日本語で書くなら、もっと分かりやすい、誤解の無い表現はあると思うのです。
例えば、
・メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが,その出身国を見ると,ドミニカ共和国が最も多くおよそ35%である。
↓
メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手である。その出身国を見ると,ドミニカ共和国が最も多く,外国人選手のうちおよそ35%を占める。
・アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
↓
アミラーゼという酵素はデンプンを分解するが、セルロースは分解できない。デンプンもセルロースもグルコースがつながってできている点では同じだが、形が違うからである。
投稿: 白い都 | 2018/02/20 12:56:53
(日本語の)文章を分かりやすく書くには、
1.端的に短く。
主語と述語だけの単純な構文にする。修飾語をごちゃごちゃ付けない。長い1文より、短い5文を並べる。
2.結論が先、説明や経緯はあと。
目標を先に掲げれば、論旨の着地点を見失わない。
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文法はやったほうがよいですね。
私が行った中学校では、国語のうち週1時間は日本語文法でした。
中1の1学期に現代文、2~3学期に古文の文法をやり、活用形など覚えさせられました。
無味乾燥な暗記でしたが、でもあれは大学入試に至るまで、役に立ちました。助動詞を制する者は、古文を制す!
投稿: 白い都 | 2018/02/20 13:06:53
baldhatter先生のブログで本書を拝見して、今、慌てて読んでいます。有名私立大学に合格するほどのAIでも、コンテキストを読むことはできないと思います。それが翻訳者にとっての救いですね。(≧∇≦)
投稿: Tak | 2018/06/07 15:57:39