# なぜ、「Weblio類語辞典」は「辞書」とはいえない、のか
毎日新聞・校閲グループさんが、ブログにこんな記事をアップなさっています。
既に5月のブログでその可能性には言及していましたが、もっと強調しなければなりますまい。「Weblio類語辞典」は「辞書」とはいえないと。
「Weblio類語辞典」は提供元がWeblioとなっています。市販の類語辞典から提供されたものではなく、独自に作っているのです。その中には、プログラムにより自動的に生成されたものもあるようです。
毎日新聞さんの投稿としては、ここまでで十分でしょう。ここから先は、帽子屋が引き受けようと思います。なぜ
「Weblio類語辞典」は「辞書」とはいえない
のでしょうか。
ちなみに、このブログでは過去にも何度かWeblioは取り上げています。
最初の記事がこれ。10年以上前です。私としてはただ、「変な用語集へのリンクが集まっているおもしろサイト」だと思っていました。
その少しあとには、運営者あてにスペルミスを報告したりしており、好感のもてるサイトでした。
それから3年後、WeblioだけでなくGoogle全体の信頼度がだいぶ怪しくなってきた頃の記事がこちら。
さらにその3年後、いまから5年前ですが、この頃には収録データの
出典に注意する
よう、呼びかけています。この注意点には、あちこちのセミナーなどでも、繰り返し触れるようにしてきました。
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では、Weblioで「そもそも」を引いてみましょう。
ただし、トップページ
から検索したときに出てくるのは、三省堂大辞林です。
出典情報として、ちゃんと「三省堂 大辞林」と書いてある点、覚えておいてください。もちろん、語義・語釈のなかに「基本的」などという類語は載っていません。
Weblioのなかで「類語・対義語辞典」というセクションに移動して---
---あらためて「そもそも」を検索します。
ありました、「基本的に」。
ここで注意するのが、さっきの「三省堂 大辞林」と同じ位置にある出典情報です。ここに
Weblio類語辞典
と書いてあるわけです。ここをクリックしてみましょう。
提供 Weblio
URL http://thesaurus.weblio.jp/
ということなので、このURLに移動してみます…… って、あれ、これは、さっき「そもそも」を検索した「類語・対義語辞典」セクションのトップですよね。戻ってきちゃいました。ここに、ちゃんと、この辞典の説明があったんでした。
Weblio類語辞典は、以下の辞書を利用しています。
「Weblio類語辞書」
Weblioシソーラス(自動抽出機能)
ん? んん?
「Weblio類語辞典は、以下の辞書を利用しています」として挙がっているのが、「Weblio類語辞書」?
これだけでもう、
辞書の出典情報としてはアウト
のはずですが、さらにその下に注目してください。「自動抽出機能」とあります。これについては、もっと下まで進まないと説明が見つかりません。
一部不適切なキーワードが含まれていることもあります
だそうです。
なんだか、どこかで見た気がしませんか。そう、機械翻訳の出力でもよく目にする免責の文言です。
機械翻訳は、この文言を入れておくことによって免責としているわけですが、それは同時に
これはちゃんとした翻訳じゃありませんからね
と宣言しているに等しい。
それと同じように、「Weblio類語辞典」も、
これはちゃんとした類語辞典じゃありませんからね
と宣言しているわけでした。
なんのことはない、「辞典として使っちゃダメですよ」って、Weblioさん自身がちゃんと書いてくれてたわけです。
使う側が気をつけなくちゃいけない……でも、ですよ。免責事項をこんな深いところに書いてたら、ふつうのユーザーはなかなか気づかないんじゃないかなぁ。そういう点では、サービスとして非常に問題だとは思います。
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どんな辞書だって、無謬ということはありえません。誤植も含めて、どこかに必ず間違いはあるでしょう。でも、だからといって
一部不適切な語義・語釈が含まれていることもあります
と免責している辞典なんて、一冊も見たことありません。なぜか。それが、辞書編纂者の矜持だからです。
内容に間違いはあるかもしれない。だが、間違いがないよう、全力で編纂した辞典を作ったつもりだ。
どんな辞書も、そう言えるだけの過程を経て作られています。その努力は、小説・映画・アニメ『舟を編む』の終盤、「ちしお」のたった1語が抜けているために、『大渡海』の編集部がどれだけの苦労をしたかという、あの場面を見ても分かります。
誤解のないように書いておきますが、人が苦労をして作ったものだから良い、機械的にデータを集めただけのものだから悪い、と言ってるのではありません。
要は名乗り方と、使い方です。
「機械翻訳です」と断っている翻訳が、本来の「翻訳」を名乗ってはいけないのと同じように、「自動抽出データを使っている」と宣言しているデータ集が「辞典」を名乗るべきではない、そういうことです。
使う側も、そのつもりで使いましょう、ということ。
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以下は余談。
「どんな辞書も、無謬ということはない。が、編集者は間違いがないよう全力を尽くしている。だから、免責の文言を書いたりしない」
これって、翻訳も同じですね。
「どんな翻訳も、誤訳がないということはない。が、翻訳者は間違いがないよう全力を尽くしている。だから、免責の文言を書いたりしない」
だから、免責の必要な機械翻訳に、人間の翻訳が負けるはずはないのです。
05:08 午後 翻訳・英語・ことば 辞典・事典 | URL
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