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2017.05.27

# 翻訳は不自然な作業 - CATツール環境はもっと不自然

先日の翻訳フォーラム・シンポジウム、全セッションを通じて、いろいろと印象に残るキーワード、キーフレーズがあったことと思います。


なかでも、高橋さきののパート『述語から読む・訳す』の冒頭に出てきた話は、かなりインパクトがあったようです。

翻訳は不自然な作業

ほっておけば《勘》はどんどん鈍る。

翻訳をすればするほど、日本語単体の文章力は下がる


ふつうの翻訳でさえ「不自然な作業」であって、「翻訳するほど日本語の文章力は下がる」わけですから、

翻訳支援ツールを使うのは、もっと不自然な作業

だということは、容易に想像がつくでしょう。
※ここで言う翻訳支援ツールとは狭義、いわゆる翻訳メモリーアプリケーションのことです。


どんな文章でも、ひとつずつの文が独立して存在しているわけではありません。原文のライターが、1文ずつを、まったくばらばらの意識で書いてるなんて、ありえないからです。


どんな文と文にも、必ずつながりがある。

時系列に沿った説明、原因と結果、理由と結論、言い換え、反復、例示、順接、逆接、添加、反転……。明示的な接続語句があってもなくても、あらゆる文と文の間には、そういう関係がある。もちろん、英語でも日本語でも。

そして、文と文がつながってパラグラフになり、パラグラフとパラグラフがつながって文章ができあがる。


そういう流れ、かたまりを、1文ずつに切り離した状態で訳そうなんて、それはもう不自然のきわみです(差分だけの翻訳とか!)。

CATツールのメーカーは、「前後の文脈も見えるでしょ」と言うかもしれませんし、CATツールを日常的に使っている人なら、「文脈には気をつけて使っている」と言うでしょう(実際、そう意識しているのでしょう)。

でも、人間の感覚って、実はとても脆い。よく言えば、融通がききすぎる。だから、あの窮屈な

1文単位のインターフェース

をずーっと使っていたら、どうしたって影響を受けます。影響されないと考えているとしたら、それは錯覚です。


不自然な行為の影響をなくすには、どうすればいいか。その方法やヒントを、シンポジウムではお伝えしました。

スキルの落ちにくい訳出作業が必要

というのが、ひとつの解答でした。

「1文単位のインターフェース」の弊害はわかっていても、お仕事として使わなきゃならない。のだとしたら、その影響を相殺するには、ふつうの翻訳を並行して続けること、あるいはふつうの翻訳に置き換えてしまうことです。

ちなみに私は、CATツール指定案件でも、ちゃんと訳したいときは、ソース(PDF、Webページなど)から原文を確保して、それをふつうのインターフェース(ただのWordファイル)上で訳してから、最後にCATツールに貼り付けています。

手間は増えますが、私がこの方法をとるときって、そもそもCATを使うべきではない文章にCATが指定されているケースです。原文と訳文が一対一にならない部分も多くなりますが、それは当然だし、こういうケースなら訳文の再利用が発生する可能性はまずないので、問題化することもほぼありません。

そういうことを前提にしたうえで、CATの影響を回避するための、いわば自衛手段です。

CATツールを使っていれば、弊害には遅かれ早かれ気づくでしょう。もし、日常的にCATを使っていて、不自然さを感じていないとしたら要注意です。それどころか、あのインターフェースのほうが訳しやすいと感じているとしたら、1文単位の思考に慣れてしまい、文と文との間にあるはずのつながりに鈍くなっている兆候かも。


ましてや、翻訳の力が固まっていないうちにCATツールを導入し、メモリーの既存訳や用語集を頼りに「翻訳力をつけよう」という発想は論外です。しばらく続けていたら、表面的には何とか「訳文」を取りつくろえるようになるかもしれませんが、ちゃんとした力は身につかない。第一、そんな付け焼き刃でできるレベルなら、早晩、機械翻訳にとって代わられるでしょう。

シンポジウムに出てきた、鉄人28号の話も、そういうことです。

04:48 午前 翻訳・英語・ことば TRADOS |

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コメント

ありがとうございます。本当にそうですね。

投稿: 関 美和 | 2017/05/27 9:40:22

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