# その後の電子辞書(端末タイプ) - 翻訳者ご用達になるか?
2015年3月にSII(セイコーインスツル)が電子辞書ビジネスから撤退して以来、すっかり電子辞書端末には興味がなくなっていましたが、最近こういう記事を見かけたので、またちょっと調べてみました。
リンク:日経電子版:スマホでは代替できない、衝撃的なコスパの電子辞書
もちろん、翻訳者のような視点で辞書を語れというのは無理な話だろうとは思いますが、
いくつかのコンテンツをスマホに常備しておくのは便利だろうが、スマホ自体を電子辞書並みに使うのはあきらめた方がいい。
容量不足だけを理由にこう断定しているのは、ちょっと浅はかというもの。電子辞書端末のコンテンツは固定(カードなどでの限定的に追加できる分を除き)、スマホなら新しいバージョンが出たら入れ替えは自在、という観点が抜け落ちています。
それに、コンテンツを精選すれば自分用の辞書端末には十分なるわけですが、そもそも「コンテンツ数が多いほうがいい」という前提で書いているから、まあそういう使い方に思い至らないのは当然かもしれません。
さて、この記事中でも「英語モデル」と紹介されている「「EX-word XD-Y9800」は、どんなものなんだろうかと思って、以前からあるリストを更新してみました。
訳者ご用達電子辞書の収録コンテンツ一覧 - 2016/5/9版(Excelファイル)
(※クリックすると、すぐにファイルがダウンロードされます)
記事で紹介されているもうひとつの製品「EX-word RISE XDR-A20」というのは学習モデルで、ラインアップとしても完全に別なので入れていません。
XD-Y9800の特長を示すアイコンはこのとおり。
さて、英語コンテンツの実際の充実度はどんなものでしょうか。
そもそも、かつてのSIIのラインアップとカシオ製品では、「収録コンテンツの多さ」についての哲学がまったく違っていたことは、以前の記事に書きました(side A: # SIIの電子辞書ビジネスからの撤退に思う、その2)。
比較表の最後に「総コンテンツ数」という行を追加してみました。
SIIさんは、PASORAMA搭載の初期型だったSR-G9003では、一時期コンテンツ数を増やしていたんですね(日経の新書サイズ本など)。それでも60です。
ところが、翻訳者向けの大本命となったDAYFILERシリーズの DF-X10000/DF-X10001 になって、またそういう辞書以外のコンテンツをばっさり切り捨て、コンテンツ数を44と絞り込んでいたんでした。
そりゃねえ、翻訳者以外には、
売れるわけない
商品だったんですね、と改めて確認。
さて、EX-word XD-Y9800です。
たしかに、新しいだけあって、わりと最近出たコンテンツはおさえてあります。これはいいですね。
・大修館書店 ジーニアス英和辞典 第5版
・Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 9th Ed
・大修館書店 明鏡国語辞典 第二版
気になるのは、
・ジーニアス大和英インデックス
というやつです。これ、G大の例文から和英で逆引きできるようにするためのインデックスですよね。ということは、わざわざこういうインデックスを追加しないと逆引きはできないのでしょうか。
それから、EX-wordの以前のモデルでも気になっていたのが、以下の辞書の版です。
・研究社 新和英大辞典 第五版
最近はどれも「電子増補版」と書いてあるのですが、Ex-wordでは一度もそう書いてあるのを見たことがないのです。どうなんでしょ。
・Oxford Dictionary of English, 2nd Ed
・Oxford Thesaurus of English, 2nd Ed
この2つも、しばらく前に第3版が出ていて、SII も最後には収録していたのですが、なぜ今になっても第2版のままなのでしょうか。
といっても、まあここまでは瑕瑾。英和・和英のラインアップとしては合格でしょう。
ちょっと残念なのは、英英のラインアップです。
すでに書いたようにOALDが最新の 9th になっているのは◎ですが、それ以外は不合格でしょう。
英英がOxford系しかない
からです。
SII では収録されていた Collins COBUILDは、Ex-wordではこれまでも一貫して収録されていないので、おそらく権利取得の問題なのでしょう。Longman は、2年前の最上位モデル「XD-U18000」には入っていたのに、これには入っていません。
国語辞典も、明鏡が第二版になったのは○ですが、大辞典が「デジタル大辞泉」のみというのは寂しい(ネットで引けるコンテンツですし)。
一方、メインの辞書コンテンツ以外は、まあたしかにスゴいですよ。以前はとにかくコンテンツ数を売りにするためだけにあまり意味のないコンテンツを押し込んでいた風情もありましたが、今回のモデルを見るかぎり、そういうことはやっていません。
NHKラジオのコンテンツ3種をはじめ、アルクのコンテンツ(「キクタン」シリーズなど)が20、「ひとり歩きの英会話」シリーズが17、TOEIC/TOEFL対策本が16など... 要するに英語を学習する人には、とても向いていそうです。
つまり、これが「英語モデル」であることは間違いありませんが、「XD-U18000」がそうだったように
「英語プロフェッショナルモデル」ではない
ということです。
まとめると---
・「G5」と「OALD9」が入っている点は◎
・国語系が弱いのが×
・英英が圧倒的に弱いので××
・学習コンテンツは豊富なので、英語学習用としては○
という感じでしょうか。
■
ここまで書いてから、あらためてカシオのサイトを見ましたが、「英語プロフェッショナルモデル」に該当するのは、XD-U18000の後継モデルとしてこの2月に出た「XD-Y20000」ですね。
リンク:XD-Y20000 | 生活・教養 | 電子辞書 | CASIO
よく見ると、こちらはかなりいいかもしれません(リストには、これも追加しました)。
XD-Y9800と同じく、
・大修館書店 ジーニアス英和辞典 第5版
・Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 9th Ed
・大修館書店 明鏡国語辞典 第二版
が入っているほか、サイトの情報が間違っていないかぎり、なんと
LDOCE6
が入っています。2014年に出た最新版ですが、これ、単独のCD/DVD-ROM製品は出ていないので、いちばんの目玉かもしれません。
そのほか、
・ランダムハウス英和大辞典
・精選版 日本国語大辞典
・大修館書店 日本語大シソーラス
が入っている点は、かつてのSIIと同じです。そして、このモデルならではのラインアップが以下のとおり。
・ウィズダム英和辞典 第3版
・ウィズダム和英辞典 第2版
・旺文社 オーレックス英和辞典 第2版
・旺文社 オーレックス和英辞典
などの学習辞典と、
・The New Oxford American Dictionary 2nd
が入っています。これらのコンテンツは、書籍版以外は一部のモバイルアプリに限られるので、かなり貴重なコンテンツです。
メインの辞書以外の雑コンテンツも、XD-Y9800より実用的な感じです。
今だったら、翻訳者ご用達ということであれば、XD-Y20000で決まりじゃないでしょうか。
ってか、これ欲しいなぁ...。
でも、PASORAMA的なインターフェースを考えてくれたら、もっといいなぁ。
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