# 是枝版『海街diary』
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以下、ネタバレも含みます。ご注意ください。
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何が良かったって、この映画、まず食事のシーンが多い。
綾瀬はるかとか長澤まさみとか、キャスティングの段階でかなりがっかりでしたが、始まってすぐの食事シーンであっさり引き込まれました。姉妹の三人ともね、食べ方の演技が実にいい。しっかりリアルに食べる。
そのあとも、おはぎ、あじフライ、ちくわカレーと、原作でも重要な存在感のある食べ物が出てきますが、そのどこでも食べ方に感心させられました。
三女・千佳は、スチルで見たときにはいちばん違和感がありましたが、実際にはそれを演じた夏帆がいちばんよかった。あの不思議なキャラを、よくあれだけ再現できたと思います。
ちなみに、彼女のファッションは、私がよく行くエスニック系のお店「チャイハネ」が協力しているようです。そういうところ、原作よりちょっと趣味がよすぎるかもしれませんが……
その千佳も含め、姉妹4人の「原作っぽさ」の再現にはかなり成功しています。広瀬すずが整いすぎている気もしますが、ぎりぎり許容範囲。
海猫食堂のおばちゃんに風吹ジュンとか、姉妹の母親に大竹しのぶとか、そのあたりまで含めて女性陣のキャスティングはよかった。
逆に、男性キャラは「原作っぽさ」を潔くあきらめたようです。これは大正解。
吉田秋生キャラでしかありえないイケメンの藤井朋章は、エピソード自体をほぼ全面的にカット(佳乃がそれを引きずる描写もいっさいなし)。
長女・幸の同僚であり不倫相手の椎名医師も、原作よりもっと年上の設定になりました(堤真一)。
そして何より、山猫亭の福田仙一。私が、右コラムで「天本英世似のキャラクター」と書いた人物であり、最新号の連載でもキーパーソンですが、あの風貌と個性はそうそう3Dで出せるもんではない。それを、リリー・フランキーという俳優の個性で上書きしてしまいました。
要するに、原作って、女性陣はリアルだけど、男性陣はけっこう現実離れしてるってことかな……。
唯一、あまりにも原作どおりで吹いたのが、スポーツマックスの店長ですが、彼の内面にはほとんど踏み込みません。
キャスティングに加えて、なによりストーリー上の取捨選択と再構成が見事でしたね。原作のいいところを、ダイジェスト的にではなくうまく取り入れ、オリジナルの部分もおおむね好感が持てました。
第1話から原作5巻の『群青』までをカバーしていて、大筋はおおむね以下の話を中心に構成されています。
「蝉時雨がやむ頃」(1巻、第1話)
「真昼の月」(2巻、第4話)
「誰かと見上げる花火」(3巻、第2話)
「止まった時計」(3巻、第4話)
「おいしいごはん」(4巻、第4話)
「群青」(5巻、第3話)
すずの学校やサッカーの描写は最小限。チームメイトは背景として出てくるだけだし、風太とすずの場面もごくわずか。これも、中学生が出てくると演技の面でどうしても辛くなるので、正解でしょう。
こういう構成のシーケンスを、移りゆく鎌倉の美しい四季とともに描き、そこに流れる時間と空気もきちんと丁寧に映しだす。
姉妹それぞれの心の移り変わりを、単に原作を追うのではなく2時間という映画の枠の中で組み直したのも、さすがでした。監督自身が、原作をじっくり読み込んでいる。最大の成功要因はそこでしょうね。
だから、原作者は是枝監督との対談でこんなことを言ったとか。
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