« # 7月号連載の「海街」がすばらしかった | トップページ | # EBWin4、地道にバージョンアップ継続中 »

2015.06.21

# 是枝版『海街diary』

★★★★☆

実写化されると最初に知ったときはのけぞったし、是枝監督が撮ると知ってからも、予告編やスチルを見たかぎりではまったくピンとこなかったのですが、やたらと前評判がいいので、観てきました。


さすがですね、監督。

マンガにしかできないことと、映画だからこそできることをちゃんとわかったうえで、吉田秋生の世界をちゃんと自分の世界に再現している。原作の刈り込みと、映画的な脚色と、ほとんどどれも成功していると思いました。

Umimachi_main

観終わってから、原作6巻をすべて再読したのは言うまでもありませんが……。

以下、ネタバレも含みます。ご注意ください。





何が良かったって、この映画、まず食事のシーンが多い。

綾瀬はるかとか長澤まさみとか、キャスティングの段階でかなりがっかりでしたが、始まってすぐの食事シーンであっさり引き込まれました。姉妹の三人ともね、食べ方の演技が実にいい。しっかりリアルに食べる。

そのあとも、おはぎ、あじフライ、ちくわカレーと、原作でも重要な存在感のある食べ物が出てきますが、そのどこでも食べ方に感心させられました。

三女・千佳は、スチルで見たときにはいちばん違和感がありましたが、実際にはそれを演じた夏帆がいちばんよかった。あの不思議なキャラを、よくあれだけ再現できたと思います。

ちなみに、彼女のファッションは、私がよく行くエスニック系のお店「チャイハネ」が協力しているようです。そういうところ、原作よりちょっと趣味がよすぎるかもしれませんが……


その千佳も含め、姉妹4人の「原作っぽさ」の再現にはかなり成功しています。広瀬すずが整いすぎている気もしますが、ぎりぎり許容範囲。


海猫食堂のおばちゃんに風吹ジュンとか、姉妹の母親に大竹しのぶとか、そのあたりまで含めて女性陣のキャスティングはよかった。


逆に、男性キャラは「原作っぽさ」を潔くあきらめたようです。これは大正解。

吉田秋生キャラでしかありえないイケメンの藤井朋章は、エピソード自体をほぼ全面的にカット(佳乃がそれを引きずる描写もいっさいなし)。

長女・幸の同僚であり不倫相手の椎名医師も、原作よりもっと年上の設定になりました(堤真一)。

そして何より、山猫亭の福田仙一。私が、右コラムで「天本英世似のキャラクター」と書いた人物であり、最新号の連載でもキーパーソンですが、あの風貌と個性はそうそう3Dで出せるもんではない。それを、リリー・フランキーという俳優の個性で上書きしてしまいました。


要するに、原作って、女性陣はリアルだけど、男性陣はけっこう現実離れしてるってことかな……。


唯一、あまりにも原作どおりで吹いたのが、スポーツマックスの店長ですが、彼の内面にはほとんど踏み込みません。


キャスティングに加えて、なによりストーリー上の取捨選択と再構成が見事でしたね。原作のいいところを、ダイジェスト的にではなくうまく取り入れ、オリジナルの部分もおおむね好感が持てました。


第1話から原作5巻の『群青』までをカバーしていて、大筋はおおむね以下の話を中心に構成されています。

「蝉時雨がやむ頃」(1巻、第1話)
「真昼の月」(2巻、第4話)
「誰かと見上げる花火」(3巻、第2話)
「止まった時計」(3巻、第4話)
「おいしいごはん」(4巻、第4話)
「群青」(5巻、第3話)

すずの学校やサッカーの描写は最小限。チームメイトは背景として出てくるだけだし、風太とすずの場面もごくわずか。これも、中学生が出てくると演技の面でどうしても辛くなるので、正解でしょう。


こういう構成のシーケンスを、移りゆく鎌倉の美しい四季とともに描き、そこに流れる時間と空気もきちんと丁寧に映しだす。


姉妹それぞれの心の移り変わりを、単に原作を追うのではなく2時間という映画の枠の中で組み直したのも、さすがでした。監督自身が、原作をじっくり読み込んでいる。最大の成功要因はそこでしょうね。


だから、原作者は是枝監督との対談でこんなことを言ったとか。

Umimachi2


01:01 午後 映画・テレビ |

はてなブックマークに追加

« # 7月号連載の「海街」がすばらしかった | トップページ | # EBWin4、地道にバージョンアップ継続中 »

コメント

コメントを書く

## コメントは承認制なので、公開されるまでに時間のかかることがあります。



(必須ではありません)