# SIIの電子辞書ビジネスからの撤退に思う、その2
というわけで、SIIの電子辞書ビジネスについて調べてみました。
きちんとしたデータはなかなか見つからないのですが、ひとまずWikipediaによると、2011年のデータはこうなっています。
SIIなんて、名前も出てこないんですね。
上位3社の合計で92.1%に達してますから、SIIはシェアのうえで呆れるほど苦戦していたことがわかります。
それにしても、シャープがこんなに強いなんて知らなかった。
ほかにも、いくつか参考になるデータを見てみました。
リンク:価格.com - 電子辞書業界の市場シェアデータ速報 トレンドサーチ
2014年10月13日(月)~2014年10月19日(日)の期間において、価格.com トレンドサーチで電子辞書のPVシェアの多かったメーカーをご紹介します。
純粋なシェアデータではなく、要は注目度みたいなもんだと思いますが、
キヤノン(wordtankシリーズ)にこそ勝っていますが、こちらでも5%足らず。カシオとシャープの2強だけで92.72%と、「圧倒的じゃないか、我が軍は」状態です。
同じ価格.comで、電子辞書の「人気売れ筋ランキング」と「満足度ランキング」も見てみました(ランキングはころころ変わります)。
DAYFILER DF-X10001が15位(満足度は12位)
SR-G6100NH2が19位
DAYFILER DF-X8001が33位
AYFILER DF-X9000が37位(満足度は6位)
と、満足度のわりに売れてはいません。
価格と売れ筋、全体の市場規模ということでは、こんな記事もありました。
リンク:売れるのには理由がある:学生に絶大な支持を得るカシオの電子辞書「エクスワード」
リンク:ガラパゴる日本の家電メーカー 電子辞書の世界 : アゴラ - ライブドアブログ
リンク:全文表示 | ネットで何でも検索できる時代 電子辞書は生き残れるのか : J-CASTニュース
大雑把にまとめると、
・全体の市場規模もどんどん縮小している(過去6年でほぼ半減)
・学生が最大のターゲット
・売れ筋は1~3万円台
ということだそうです。上に挙げたランキングに入っているSIIの3機種を見ると、DF-X10001だけが49,790円と売れ筋価格帯から大きく外れており、DF-X8001とDF-X9000は売れ筋価格帯に入っています。そう考えると、
DF-X10001は価格の割に健闘している
と言えそうです。
ところで、通翻訳者の間では、英語・国語関係のコンテンツもさることながら、「PASORAMAがあるからSII」というのが当たり前のように定着していますが、世間一般から見ると実はPASORAMAなんて差別化要因にはまったくなっていなかったのではないか、ということもうかがえます。
まず、いちばん上でメーカー別シェアをひろったのWikipediaは「電子辞書」の項目ですが、この中ではPASORAMAという固有名はもちろん、
PC上で操作できる
という特長にはまったく言及がありません。上に挙げた3つのオンライン記事もまったく同様です。SIIには、学習用にもPASORAMA搭載機種がありますが、考えてみたら、学生さんって
勉強するときはパソコンに向かってない
んじゃないの? とも思いました。
一方、私がまったく意外だったことに2位のシェアをキープしているシャープも、そして堂々1位のカシオも、製品ラインアップを見ていると
単体での使い安さとデザイン
が最重要視されています。実際に消費者もそれを求めているようです。
そういう需要を考えると、SIIがDAYFILERシリーズで失敗した要因のひとつは、Android搭載という冒険に出たことだったのかもしれません。単体で持ち歩いてみるとわかるように---なんだそうです。私はPCにつなぎっぱなしなのでわからない--、基本的にAndroid端末なので、バッテリーの持ちがかなり短い。
収録コンテンツはどうかというと、カシオもシャープも、とにかくコンテンツ数の多さをアピールしています。
これはシャープ。
これがカシオ。
かたや、SIIの電子辞書には、こういう「コンテンツ数をアピールする」見せ方はほとんどありません。ついでなので、具体的なコンテンツ数も比べてみました。
上に挙げた価格.comのランキングから、上位5機種(カシオとシャープ)と、順位はそれより低いSIIの3機種、計8機種の比較です。
なんと、コンテンツ数は1桁違います。カシオの最上位機種XD-U18000など、180コンテンツだそうです。
コンテンツの比較については、こんなページも見つけましたので、参考にどうぞ。
リンク:「くらべて.com」-楽しいこと比較サイト /電子辞書(英語重視タイプ中心)の一覧比較[2014年後半版]
要するに、SIIの製品には通翻訳者の目から見て(ただし、比較した機種のうちSR-G6100NH2は学習用)「欲しい」と思う辞書が厳選されて収録されている。一方、カシオとシャープは、とにかく数をそろえて迫ってくる。そういう、基本的な発想の違いがあるわけです。
こう見てくると、SIIさんって、
「英語と日本語を使うプロ、特に通翻訳者が重宝する製品」を積極的に志向して頑張ってきてくれた。PASORAMAでPCと連動するとか、Android OSを搭載して拡張性も考えるとか、とてもいい設計思想を持っていた。でも、いかんせん市場の需要には合っていなかった。
― そして、それが最終的にはビジネス上の敗北につながってしまったということのようです。
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
新学期が始まって、辞書の買い方の説明をしてるんですが、「SIIのはとても翻訳者向けだったのに、撤退が決まって…」と言うたびに悲しくなっています。でも、ねえ。そうなんですよね。一般の人達に売れる要素が一つもなかったんですよね。
せめて「飯の種」になる中高生用廉価ラインを用意して、そっちで稼いでおいて、高級機は儲け度外視、みたいなビジネスモデルになってれば良かったんでしょうが(上位メーカーも高級機についてはそういうことじゃないかと踏んでいます)、それもなく。
USBでつなげるPASORAMA機能について、メーカーからのアピールがまるでなってなかったのは、最後まで残る不満です。先日も、わたしの説明の途中で自分のDAYFILERをひっくり返してUSBの接続穴を見つけ、「そんな機能がついてたって知らずに使ってました」という生徒がいました。(それでよくDAYFILERを選んだなという気もします。他社に比べると重いし、電池持たないし。リーダーズ3や海野さんといったプロ向けコンテンツに引かれたのかしら)
コンテンツ数の多さで競うというのは、「一番わかりやすい判断基準」という点で、一時期までのデジカメの画素数競争と似ていますね。実際には数合わせで大して使えないものも多いかもしれませんが、素人さんにはわからない。SIIさんだって別売で売ってるような会話集だ、名作集だっていうのを、どんどん本体に入れて、見た目の数を増やしちゃえばよかったのに。そういうところが(馬鹿)正直だったのかも。
投稿: Nest | 2014/10/26 13:33:50
もう一つの「新学期」があと半年弱でやってきます。桜の季節……。例年、大学生協仕様の電子辞書は、SIIの製品だったと思うのですが、どうなるのでしょうか。
投稿: Sakino | 2014/10/26 16:04:41
この投稿は承認していただかなくてかまいませんが、
DF-X10001は価格の割に検討している
での「検討」は、「健闘」の書き間違いでは。
投稿: バックステージ | 2014/10/27 3:50:38
バックステージさん、ご指摘多謝。修正しました。
投稿: baldhatter | 2014/10/27 8:15:00
Nestさん、3月の段階でも「商売へた~」っておっしゃってましたもんねー。
> そういうところが(馬鹿)正直だったのかも
今にして思うと、むしろそうなんでよすね、きっと。私たちの要望に、とても丁寧に応対してくれましたし(レスポンスの遅さはあったけど)。
投稿: baldhatter | 2014/10/27 8:17:04
> 大学生協仕様の電子辞書は、SIIの製品だった
そういう販路があるのであれば、シェアももうちょっと行ってもよさそうなんですけどね。今からでも遅くないから「学生向けは続ける」とかやってみればいいのかも?
投稿: baldhatter | 2014/10/27 8:18:13
わたしたちにしてみると、そもそも重くて高いデイファイラーにしてもらう必要はなくて、旧型(SR)でも、PASORAMAさえついてれば良かったんですよね。でも立て増し、立て増し式のハードの開発がたぶんだんだんつらくなってきて、ゼロから設計!それなら汎用OSの使えるAndroid機!ってなったんでしょう。しきりにタッチがどうの、通信がどうのって言ってましたもんね。
すこーしだけ、「しっかりしたキーボード付きのAndroid端末」としてガジェオタさんに受けないかなあと期待したんですが、それにしたってそっち方面に売り込まないとダメですもんね。ネット検索していると、そういうことを試みた猛者もいらしたようですが、いかんせん「裏メニュー」的使い方で、「自己責任で、あれしてこれして」ということになって、流行るはずもなく。そのうち世間のアンドロイド機がどんどん進化していってしまった気がします。デイファイラーのOSっていくつなんだろう。メーカーさんには何度かそういう、非辞書ユーザ向けの提案したんですが「あくまでもうちは辞書屋なので」って言ってました。
コンテンツのライツホルダーとの交渉はきっとどこも大変なんでしょうね。デイファイラーのような、「捨てコンテンツ」が少ない、王道がたくさん入っているようなのは、相当な困難だったのではと想像します。例のコピペすると著作権表示がデフォルトで入るなんて条件をつけてまでがんばってメジャーどころを揃えてくださったんでしょう。帽子屋さんが次のブログエントリーに書いてらっしゃるとおり、せっかく獲得したコンテンツの利用権を何らかの形で残してくれるといいんですけどねえ。やっぱり「あくまでも辞書(ハード)屋なので」って言われちゃうかしら。
投稿: Nest | 2014/10/28 0:53:37
> コンテンツのライツホルダーとの交渉
たぶん、ビジネス的にいちばん大変なのはそこだったんじゃないかと思っています。不況が恒常化している出版業界ですから、どの出版社だって、辞書コンテンツは少しでも有利に展開したいはずですもんね。
だから、私たちは何も「タダで」あるいは「安く」使わせろと言ってるわけじゃない。
必要な機能のある辞書ブラウザと、互換性の高いデータを売ってくれ、と言ってるだけなんですから。ただ、そのマーケットがあまりにも小さいというところが問題なんですかねぇ。
投稿: baldhatter | 2014/11/30 14:35:36