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2014.07.18

# 『ゴジラ』(1954)~二人の科学者の業~

★★★★★

ハリウッド版ゴジラの公開まで、ようやくあと1週間。

その前哨戦として、もう1か月も前の話ですが、1954年版ご本家『ゴジラ』のデジタルリマスター版が(地味~に)公開されたので、もちろん行ってきました。大画面で観るのは、

# デアゴスティーニの『ゴジラ』上映イベント

このとき以来ですが、デジタル版になったおかげで、画面の細部がいろいろ見えるようになっただけではなく、音声がクリアになったのがナイスでした。


当時まだ誰もが記憶にとどめていた戦争、特に東京大空襲の恐怖とか、第五福竜丸の事件も受けた原水爆実験への警鐘とか、この映画については今までだいたいそういう基調で語られるのが定番でした。

でも、それらと並んで、あるいはそれ以上に見逃してはならないのは、

科学者の業

ということがしっかりと描かれていることでしょう。

その科学者を代表して登場するのが、言うまでもなく古生物学者・山根恭平博士(志村喬)と、その愛弟子である芹沢(平田昭彦)なわけですが、本作の主人公は南海サルベージの尾形(宝田明)じゃなく、どう考えてもこの科学者二人です。

尾形はですね、入社したばかりのニューフェイス宝田明を起用した、いわばアイドルタレントの初主演という位置付けでしかなくて、実際、劇中のポジションとかセリフ回しを見ていても、ほとんど重みがありません。

今、芹沢のことを「愛弟子」と書きましたが、劇中にそういう言及はもちろんありません(専門もたぶん違います)。が、「山根博士の養子となるべき人物」と言われている以上、山根は同じ科学者として芹沢の優秀さを認めたからこそ、娘の婿にとろうと考えていたはず。


そして、この二人は、ドラマの終盤、ゴジラ殲滅戦に挑む船上にいたるまで、実は一度も顔を合わせていない。どころか、お互いに

名前すら一度も口にしていない

のです(間接的には、恵美子の口を通じて一度だけ、「芹沢はこのごろ何をやってるんだ」と言っていると語られます)。それぞれが、ある意味で救いがたい「業」を抱えた科学者として描かれていくだけです。


「まずあの不思議な生命力を研究することこそ、第一の急務です。」

そう主張する山根の頭には、純粋に科学者としての好奇心、探究心しかありません。

品川に上陸したゴジラの足音を聞きつけて

「ゴジラだ、ゴジラが来たぞ!」

と駆け出すときの様子など、まるで無邪気な子どものようです。


「ゴジラを殺すことばかり考えて、なぜ物理衛生学の立場から研究しようとしない。この、またとない機会を。」
「あのゴジラは、世界中の学者がだれ一人として見ていない。日本だけに現れた貴重な研究資料だ。」

大きな被害が出はじめてからでさえ、山根がゴジラによる災害を憂える気配は一向にありません。徹底しています。だから、山根博士は科学者としての自身の欲求と、人道的な思いとの葛藤に苦しんだりは、ほとんどしないのです。


一方の芹沢は、いわゆる"マッドサイエンティスト"の典型、世捨て人として描かれているように見えますが、実は虚栄心も恋慕の情も持ち合わせています。

木で鼻をくくったような態度で新聞記者を追い返してから、残った恵美子にだけ、オキシジェンデストロイヤーを見せてしまう。「絶対に秘密ですよ」と言いながら、なんでそんなことをしちゃうのか。

ここで私が思い出したのは、岡田斗司夫が『風立ちぬ』の主人公について言ってることでした。要約すると、「主人公の堀越二郎は、技術バカで、まわりのことなんかまったく見えていないように見える。でも、きれいな女性にはちゃんと目が向いている」みたいなこと。つまり、芹沢は少なくとも心情のうえでは世を捨てきれていなくて、ちゃんと恵美子の気を引こうとしている。

もしかしたら、そういう男女間の心情ではなく、「秘密と言っておきながら、誰かには見せずにいられない」という科学者としての性がそうさせたのかもしれません。いずれにしても、そういう人間味をまだまだ残しているわけです、芹沢は。

秘密を見せた後にも、

「恵美子さん、僕はただ、科学者として研究を続けているにすぎません」

と科学者としてしっかり自己弁護をしておきながら、

「もしもこのまま、何らかの形で使用することを強制されたとしたら、僕は、僕の死とともにこの研究を消滅させてしまう決心なんです」

という人間としての理性は忘れていない。だからこそ、最終的には尾形と恵美子の願いを聞き入れてオキシジェンデストロイヤーの使用を決意できるわけです。

でもよく考えたら、「僕の死とともにこの研究を消滅させてしまう」という芹沢の決心を聞いているにもかかわらず、オキシジェンデストロイヤーを使わせてくれと頼むのって、

「人類のためにあなたが死んで」

と言っているにも等しいんですよ、恵美子お嬢さん。少なくとも芹沢には、そういう宣告に聞こえたに違いないのです。でも、そのことがよけいに、自身の命を賭してオキシジェンデストロイヤーを使うという決断に向かわせた、そう考えると、もうね、自らの手で書類を焼く芹沢の姿、涙なしには見られません。

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そして、ようやく巡視船「しきね」に乗船した二人が互いの心情を語り合う場面などもまったくありません。

「芹沢くん、尾形くんの言うとおりだ」

と山根が語りかけ、

「先生、これっきりしかないオキシジェンデストロイヤーです。完全な状態で作用させるには、水中操作以外にはないのです」

こう芹沢が答える場面があるだけです。それだけに、

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二人が黙って舷側に立つこの絵が、実にいい。


オキシジェンデストロイヤーの効果を確かめる芹沢。丸窓ごしですが、

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その目は、実験結果を見届けようとする冷徹な科学者そのものです。でも最後には、

「尾形、大成功だ……。幸福に暮らせよ。」

という人間くさいセリフを残します。


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「芹沢……」

で、例の有名なラストのセリフにつながるわけです。

「あのゴジラが、最後の一匹だとは思えない。もし、水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類が、また世界のどこかに現れてくるかもしれない。」

これ、次回作の予告 人類への警鐘とか以前に、「また現れるかもしれない。なんでもっと徹底的にヤツを調べようとしなかったんだ」という批判や後悔の言葉ともとれます。


一見すると人格者のように見える山根博士のほうが実は科学者としては徹底していて、むしろマッドサイエンティストと呼ぶにふさわしい。逆に、風貌も暮らしぶりもまさにマッドサイエンティストそのものの世捨て人として登場する芹沢のほうが人間性をとどめていて、最後にはその人間性が人類を救う。

そんな逆転の悲劇を生んだのも、まさに科学だった。

次にこの映画を観る機会があったら、ぜひそういう図式も意識してみてください。

05:49 午前 映画・テレビ |

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コメント

御無沙汰しています。

先日NHKで放送された「ゴジラ」リマスタリング版を録画しました。それを途中まで見たのですが、所用で中座せねばならなくなり、その後は色々(特にW杯などが)あって見る時間を作れずにいます。

で、最初の40分程度しか見ていないのですが、観想としては「あんなにシリアスだったのか!」。

さすがの私も第1作はリアルタイムで見てません。たぶん、かつてあった名画座の類で3本まとめての特別上映などで見たのだと思うのですが、前半についてはほとんど記憶になく、新鮮な気持ちで見ることができました。

来週になると時間ができるのでゆっくりと見るつもりです。結末については知ってはいますが、それでもきっとわくわくしながら見ることになるでしょう。

アメリカ版ゴジラは、見に行くかどうか決めかねています。前回はジャン・レノに魅かれて行ってちょっとがっかりだったので、今回の渡辺謙には(別に彼が悪いのではありませんが)、疑心暗鬼にならざるを得ないというところです(^^;)。

余談ですが、伊福部昭を取り上げたドキュメンタリも大変面白かったですよ。

投稿: Jack | 2014/07/22 18:40:55

Jackさん、ほんとお久しぶりです。たまにはお会いしたいですねー。

> アメリカ版ゴジラは、見に行くかどうか決めかねています。

さっそく最新エントリで書きましたが、まあ気にせずに行ってらしてください^^


> 伊福部昭を取り上げたドキュメンタリ

これ、実は見損ねていたんですが、DVDにしてくれた方がいて、今週末にもらう手はずになってます。

投稿: baldhatter | 2014/07/28 9:49:11

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