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2013.01.16

# 翻訳の背景にある文化、または"I, Borg"

(たまにはマジメに翻訳の話も書くんだよ)

先週、有志の勉強会で、(ふだん私がよくやる)ツールとかマクロとかの話ではなく、もっと翻訳の本筋にかかわるテーマで少し話をしました。ネタにしたのは、こちらのページで私が出題した課題文。

リンク: アルク翻訳コンテスト2012:翻訳・通訳のトビラ

(募集期間が過ぎてしまったので肝心な課題文は載っていませんが、2/12を過ぎたらまた載ると思います)


昨日も、定番IT系ニュースサイトのひとつ TechCrunch で、こんな記事を見かけたのですが、

リンク: iOS版Googleマップ、公開後48時間で1000万ダウンロード突破。Googleが異例の発表

この最後の1文、

どうやら 「ボーグ」 は、デザインの心を見つけたようだ。

かなりの確率で日本の読者には伝わらないんじゃないか、と気になりました。

カギカッコが付いてるので、何か特別な言葉なんだろうとは想像がつきますが、みなさんはご存じですか? ボーグ?


IT系ニュースサイトの多くはそうですが、TechCrunchでも原文へのリンクが貼られています。これはとてもいいことですよね。

その原文はこうでした。

It looks like the “borg” has found its design heart.

もともと引用符が付いていたようで、翻訳のときに気を利かせたわけではないようです。

でも、おそらくアメリカでは、この the “borg” が読者に通じる確率は、日本でよりはるかに高いはずです。なぜなら、これは「スタートレック」ネタだからです。正確には、

Star Trek: The Next Generation
(邦題、「新スタートレック)

と言い(略称、TNG)、カーク船長とかミスター・スポックが登場するいちばん有名なシリーズに続く第2作。かつ、シリーズでいちばん長く続いた(7シーズン)有名なTVドラマです。


TechCrunchの記事に使われた the “borg” というのは、このTNGで初登場し、続く Voyager や映画版にも出てきた異色なエイリアンのことです。

リンク: ボーグ - Wikipedia

英語 Wikipedia の説明のほうが端的だな。

The Borg are a collection of species that have been turned into cybernetic organisms functioning as drones of the collective or the hive

ということは、TechCrunchの原文ではGoogleをこの「ボーグ」にたとえた、つまり

「心を持たず、趣味とかデザインといった要素にも関心をもたない無味乾燥な集団だったGoogleが、"design heart"をもつようになった」

と言いたかったのでしょう。


巨大な企業の比喩としては、IBM = Big Brother が有名ですが、Borgについては、こんな記事もあります。

リンク: Google Borg or Google Brain?

少し前まで、Borgと揶揄されるのはMicrosoftだったようで、そういえば一時はこんな画像もよく見かけましたね。

1301161


というような背景を知らずに翻訳記事でカギカッコ付きの「ボーグ」を見ても、何のことかわかりません。かといって訳注では野暮ですし。こーゆーのは難しいですね。私だったら、訳注にせず文に少し説明を足したかなぁ......

つい先日も、翻訳学校で背景文化の重要性を説明したばかり。

聖書
シェイクスピア

あたりは定番として、そのほかは人によっていろいろと意見がわかれるでしょうが、現代英語を扱うのであれば、

Star Wars
Star Trek

は必要。と、そのまんま板書したところでした。


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先日も、知人の結婚式でこんな余興があったくらい、日本でも Star Wars シリーズはだいぶ定着してきましたが、それに比べると、Star Trekの知名度はいまひとつのようです。

今回のTechCrunch記事も、それだけによけい難しいところでしょう。


12:25 午後 翻訳・英語・ことば |

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コメント

ご無沙汰してます。
難しいですね。ボーグの無敵さ非情さを知らない人に伝えるのは。

投稿: 竹花です。 | 2013/01/24 10:25:44

ピンクのストームトルーパー(笑)。

投稿: 竹花です。 | 2013/01/24 10:29:58

アメリカ人でもスターウォーズとか興味ないって人はいると思うのですが、ITやゲームに関わる仕事をしてる人なら当然知ってるでしょうね。スタートレックのおかげであちらの人はSFの基礎知識(ワープとかタイムパラドックスとか)が身についてる確率が高い、ととあるSF翻訳者の方が言ってました。

ピンクはなかったかもしれませんが、ジェダイの帰還の皇帝の護衛は赤かったですよね。

投稿: おじゃま丸 | 2013/01/24 16:47:18

竹花隊長、このピンクのストームトルーパーは、ピンクリボンのキャンペーンのために出てくるキャラクタなんだそうです。

> ITやゲームに関わる仕事をしてる人なら当然知ってるでしょうね

そうなんですよね。ITとSFは相性いいですから。

投稿: baldhatter | 2013/01/27 16:28:42

やはり「聖書」「シェイクスピア」の次はStar Wars/Star Trekですよね。わたしもそう教えています。エンターテインメント系でも、セリフのそこここに出てくるんです。仮に本編を見たことがなくても「May the Force be with you」は「この印籠が目に入らぬか」と同じくらいhouseholdな言葉である、と言ってるんですが、嘘じゃないですよね(^^;)。

投稿: Nest | 2013/02/04 6:05:48

おじゃま丸さん。
赤いの、いましたっけ? 確認しなきゃー。

投稿: baldhatter | 2013/02/04 6:20:23

> 「May the Force be with you」は「この印籠が目に入らぬか」と同じくらい

メジャー度で言うとちょうどそんな感じですね、まさに。
パロディは山ほどあるし、私も仕事ファイルでそのバリエーションに遭遇したことありました。

投稿: baldhatter | 2013/02/04 6:23:18

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