« # IJET-23 広島 | トップページ | # 高尾山に登ってきた »

2012.04.13

# 機械翻訳のせいじゃない

機械翻訳の出力がほぼそのまま、こともあろうに書籍という形で世に出てしまった「アインシュタイン事件」はまだ記憶に新しいところです。

リンク: 悲惨すぎる翻訳-『アインシュタイン その生涯と宇宙』: Buckeye the Translator

翻訳業界的にはミートホープ事件並の激震だと思います。
これを機に機械翻訳の利用について業界関係者がいろいろと改めて考えてみるなら、それはそれで悪くないかとも。

ところが残念なことに、同じような事件がまたも起こってしまいました。今度は、「東北観光博覧会」という半お役所的な組織の公式ホームページに、機械翻訳のトンデモ出力が載ってしまったのでした。

啄木忌は喪キツツキ? 秋田は飽きた? 東日本大震災の復興支援を目的に開かれている東北観光博覧会の公式ホームページ(HP)で、多数の翻訳ミスが見つかっている。自動翻訳機が打ち出した原文を業者もHP作成を丸投げした実行委も確認せず、ウェブ上に載せたためだ。膨大な訂正作業が終わるめどは立っておらず、各地の観光担当者は困惑している。
実行委事務局の観光庁によると、東北博の運営全般は民間の2業者に委託しているほか、HPの管理運営業務は別業者に孫請けされている。
翻訳の担当は在京のIT関連企業。「復興支援に一役買いたい」と本来数百万円かかる各言語の自動翻訳を無償で引き受けたという。


アインシュタイン事件の真相は今もって不明ですが、アマゾンに今も残ってるレビューを見ると、本来の翻訳者を確保できず、

科学系某翻訳グループに依頼
   ↓
その訳がひどかったので修正
   ↓
間に合わない分は未修正で出版(編集長の判断)

という経緯だったそうです。ということは、機械翻訳を使ったのはその「科学系某翻訳グループ」だったのでしょうか。その責任はもちろん重大ですが、それを知っていて出版に踏み切った編集サイドも信じられない(その後、この事件の責任者は何かペナルティを負ったのでしょうか?)。


でも、今回の「東北観光博覧会事件」は、ある意味もっと信じられない経緯だったようです。

第一に、

「IT関連企業が、無償で引き受けた」

にもかかわらず

「機械翻訳の出力をそのまま納品した」

というのが絶句ものです。いったいどの段階で機械翻訳が入って、どんな担当者がそれをスルーしたんでしょうか。 トンデモ出力と知っていて納品したのだとしたら職業倫理が疑われますし、これでいいと思って納品したとしたら能力に疑問符が付きます。

次に、例として挙げられているのは、どれも固有名詞だということ。

-------------------------------------------------------
■誤訳の主な例
【岩手】
●元の日本語)盛岡舟っこ流し
 HPの誤訳)We wash down Morioka ship kid(我々は盛岡の舟の子どもを洗う)
●元)啄木忌
 誤)Woodpecker mourning(喪キツツキ)
●元)せんまや夜市
 誤)Maya night market not to hold(まや夜市を持たない)
●元)生保内関所跡
 誤)Barrier trace in life insurance(生命保険における関所跡)
【青森】
●元)安潟みなとまつり
 誤)All the cheap liman and Festival(すべての安い潟と祭り)
●元)雲谷かがり
 誤)We sew Moya(私たちは雲谷を縫う)
●元)ヤッテマレ軽トラ市
 誤)yattemare light tiger city(ヤッテマレ軽い虎市)
●元)亀ケ岡さくらまつり
 誤)Tortoise ka oka cherry tree Festival(亀か岡桜まつり)
【宮城】
●元)旧伊達邸鍾景閣
誤)kyuitatsutei keikaku(きゅういたつてい けいかく)
-------------------------------------------------------

固有名詞なんて、機械翻訳の出力でまっ先に疑うべき内容でしょう。そのチェックが、いったいなぜ、どのプロセスでも入らなかったんでしょう。


アインシュタイン事件とか今回の事件を見て、「だから機械翻訳なんて当てにならない」という人もときどきいますが、悪いのは機械翻訳そのものではありません。

悪いのは、はなっから向いていない内容に機械翻訳という手段を選んでしまったその判断であり、それをスルーしてしまったプロセスと、そのプロセスに関わったヒトです。

同庁の担当者は「訂正作業はまだ時間がかかる。気づいたところはスタッフが直したが、あまりに多くて追いつかない。今後はしらみつぶしに直していく」と平謝りだ。

これも思いっきり変な話です。請け負った「IT関連企業」が、改めて

ぜんぶやり直して再納品

する、ってのが当然かと思うんですけど。

02:11 午後 翻訳・英語・ことば |

はてなブックマークに追加

« # IJET-23 広島 | トップページ | # 高尾山に登ってきた »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: # 機械翻訳のせいじゃない:

コメント

この機械翻訳の件もそうですし、原発も祇園の自動車事故もそうですが、機械ではなくオペレーターの問題だと思います。

英語もわからない、素人が誰でも使えると思って翻訳したら大きな間違いということでしょうか。専門外を翻訳すると人間が翻訳しても、機械翻訳みたいな誤訳になることになります。

投稿: 竹花です。 | 2012/04/16 14:02:00

> 機械ではなくオペレーターの問題

はい。今の日本、いろんな問題がありますが、その根本には「技術者の熟練度が下がってきている」あるいは「技能が正しく使われていない」ことにあると思っています。

高度経済成長を支えたモーレツがむしゃら時代がおわってバブルも弾けて、国全体に「そこそこでいいや」感が漂っている気がします。このままいったら本当に日本は二流国三流国になってしまうでしょう。

投稿: baldhatter | 2012/04/20 10:39:15

この記事へのコメントは終了しました。