# 「イノベーション」を調べてみた
前々エントリーで書いたように、『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』はいろいろと刺激的な一冊で、私などよりよほどまとまった記事が次々とアップされています。
リンク: 「大切なのは情熱とビジョン」---『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』著者が来日:ITpro
リンク: 「スティーブ・ジョブス 驚異のイノベーション」刊行記念イベントに行ってきました | Lifehacking.jp
などなど......。
そこで、ブロガーではなく翻訳屋である私としては、あらためて innovation という単語に翻訳屋としてアプローチしてみることにしました。
まず、国語辞典で「イノベーション」をひいてみました。
広辞苑(第 5 版)
1. 刷新。新機軸。
2. 生産技術の革新だけでなく、新商品の導入、新市場・新資源の開拓、新しい経営組織の実施などを含む概念。シュンペーターが用いた。日本では技術革新という狭い意味に用いることが多い。
大辞林
1. 技術革新。新機軸。
2. 経済学者シュンペーターの用語で、(経済上の)革新。経済成長の原動力となる生産技術の革新、資源の開発、消費財の導入、特定産業の構造の再組織などきわめて広義な概念を示す。
どちらも、狭義と広義の両方がわりと詳しく説明されています。
■
次に、innovation という名詞でもいいのですが、innovate という動詞を英英辞典でひいてみます。
LDOCE
to start to use new ideas, methods, or inventions
COBUILD
To innovate means to introduce changes and new ideas in the way something is done or made.
COD
change something established by introducing new methods, ideas, or products.
Webster 1913
To introduce novelties or changes
もともとが国産ではなかった概念なので、やはりこうして英語の語義を見てみたほうがずっと広がりがある。
『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』の中でも、「イノベーションは発明とは違う」と述べられていますが、このように多くの辞書で、「新しい何か」を「作り出す」のではなく 「introduce/導入すること」と定義されているところがカギなんですね。
「今までと違う何かを、新しいやり方を、(自分の活動するフィールドに)持ち込むこと」
と言えばいいでしょうか。ここまででも十分、innovation の正体が見えてきたような気がします。でも、もっと面白い定義も見つけました。
Webster's Collegiate
to introduce as or as if new
introduce する点は同じですが、as new だけでなく as if new なんだそうです。つまり、本当に新しい何かに限らず、「新しっぽい」というか「コンテキストが違えば新しく見える何か」というか、そんなところでしょうか。
as new から as if new までの間に、何か大きな可能性が広がっているように感じました。
08:11 午前 日記・コラム・つぶやき 翻訳・英語・ことば | URL
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ちなみにこの単語、カタカナで「イノベーション」とするか、「革新」「変革」「新機軸」など漢字語にするか、だいぶ迷いました。なんてたって最大のキーワードですし。
前著が『驚異のプレゼン』とカタカナ語だったので、カタカナにそろえたほうがいいという考え方もあります。一方、前著と同じくらい読者層が広がると考えるなら、「イノベーション」でわかってもらえるのかという不安もあって。
最終的には「イノベーション」とカタカナにしたわけですが、これは、baldhatterさんも指摘されているように、本文でどういうものなのかが説明されていますし、そのあたりまでカバーしてぴったりはまる漢字語も浮かばなかったためです。
> 「コンテキストが違えば新しく見える何か」
それはありますねぇ。たしかに。
投稿: Buckeye | 2011/07/09 14:18:42
> 「革新」「変革」「新機軸」など漢字語にするか、だいぶ迷いました。
今回は書きませんでしたが、私も「革新」や「刷新」だと innovation とどうずれてしまうのか、調べてみました。
「革新」の「革」は「革命」にも使う字で、「あらためる」という意味がありますが、原義は「たるんだものをぴんと張ってたてなおす、たるみをなくす」だそうで、そうなるとずいぶん違う感じ(ほかに「下からの力で打開する」意味もあるのですが)。
「刷新」のほうは「きよめる、ぬぐう」の意味。旧習を廃するイメージはありますが、これも違うかな、と。
漢字の造語能力は強力ですけど、やはり少しずつずれてしまうものですね。
投稿: baldhatter | 2011/07/10 0:32:10
単語単位だと、専門用語でないかぎり、だいたい意味範囲がズレるんですよね。全編通してのキーワードでなければ場所によって違う訳語を使うってこともできますけど、今回の場合はそうもいかず。
カタカナの「イノベーション」にも日本語の色がついているので、ほんと、悩ましいところです。
投稿: Buckeye | 2011/07/10 8:20:21