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2009.03.03

# 冗長な訳文ができあがってしまった原因

冗長な文章を書かないようにするにはどうすればいいか、という記事の訳文が皮肉なことに冗長な文章の見本みたいなものになってしまった(←こんな風に)という、笑えるような笑えないような翻訳話。

ネタ元は「IT 翻訳者の疑問」さん、それを元に Buckeye さんが原因を分析しています。

リンク: 2009-02-27 - IT翻訳者の疑問

リンク: Buckeye the Translator: 長い訳文・短い訳文

Buckeye さんによれば、訳文が長くなったのは

キーワードの選定とキーワードをつなぐ「トッピング」の選定がまずかったから

とのことですが、私はもうちょっと具体的にツッコミを入れてみます。

なぜそういう気になったかというと、この手の翻訳って、

  ★経験がそれなりにある IT 系の翻訳者にありがちな訳文

だよなぁ、と同業者として感じたからなのでした。

Buckeye さんとは逆に、元訳文と Buckeye さんの訳文の違うところを強調してみると、この訳文の特徴がよく判ります。

文章を簡素化することで、伝えたい内容をより明確かつ説得力のあるものにすることができる。本記事では、回りくどい表現を避けることで、文章をすっきりとさせ、読み手により強く訴えかけられるようにする方法を、実例を交えて紹介する。
あなたの書く文章は冗長なものとなってはいないだろうか?もしそうであれば、あなたは自らの時間と、読み手の時間を無駄にしてしまっていることになる。また、自らの文章を説得力に欠けた、印象の薄いものにしてしまっていることにもなる。以下に、冗長な文章と、その改善を挙げているので、参考にしてほしい。

まず目につくのが 1 行目だけで 2 回も出てくる「~ことで」という言い方。これがいちばん "IT 翻訳クサい" のです,。~ ing の主語とか、特によくあるのが by ~ing の形で、そういう動名詞表現をそのまんま訳すと、「~ことで」あるいは「~ことによって」ばっかりになります。

しかも、この原文で実際に動名詞になっているのは 2 番目のほう "eliminating..." だけで、1 番目はふつうの節 "When you streamline..." なんだから、わざわざ「~ことで」などとせず素直に「文章を簡素化すると~」でもよかったわけです。この辺が、「翻訳経験はそれなりにある」という推測の根拠。「~ことで」という訳し方が習い性になっているからつい出てきちゃったと。

次に目立つのは、「もの」という形式名詞が全体で 3 回も使われていること。いや、形式名詞というまとめ方をするなら、前項の「ことで」も含めて、「もの」と「こと」が合計 8 回も出現しています(Buckeye さんの訳文では「こと」が 1 回だけ)。

形式名詞を濫用するのは、IT 系に限らずマズい翻訳だろうと思いますが、"Perform the following:" みたいなパターンを「次のもの」と訳すマニュアル系でおなじみの習慣が一因なのではないかと想像できます。

そして、Buckeye さんがまずかったと指摘しているキーワードの選び方にしても、これは翻訳経験があるがゆえの固定観念が徒になった節があります。その典型が「冗長」という一言。IT 翻訳では redundant/redundancy という単語がポピュラーなので、「情報に不要な繰り返しや無駄があること」ですぐにこの単語が連想されたのでしょうか。

以上のほかにも、「より明確」や「より強く」のような比較級の稚拙な処理、「してしまっていることになる」、「してしまっていることにもなる」という "冗長な" 表現の至近距離での反復とか、その辺りは IT ということでなく翻訳としてかなりダメダメです。


以上、分野や用途の違う文章を翻訳するときの、自戒の意味も込めて。

09:32 午後 翻訳・英語・ことば |

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コメント

IT系にかぎらず、いかにもいかにもな訳文だって気がしますね、今回の。こういう話ってIT翻訳がやり玉に挙げられることが多いのですが、それはいろいろな意味でIT系が目立つからであって、IT翻訳に限った話じゃないと思います。

投稿: Buckeye | 2009/03/04 9:37:12

ITくささのゆえん、もしかすると、目線のせいなんじゃないかな、と思います。特に冒頭の一文。冒頭なわけで、ここで、文章との距離感が決まっちゃう。

原文は、↓なわけです。

When you streamline your wording, your message becomes more powerful and clear.

これの目線というか距離感は、「こうするとね、コレってこうなるよ」というもの。「こうなるよ」の主体(あるじ)はyour messageでしょう。フツーの文章だと、この部分は「こうなるよ」と訳す。

だけど、今回とりあげられた訳例では、「こうするとね、コレをこういうものにすることができる」となっている。どこまでいっても、主体(あるじ)は、アナタ。

他の部分も全部そう。全部、主体(あるじ)は、アナタ。これ、レセピ文というか、マニュアル文というか……。こうすりゃこうできる。こうしろ、ばかり。

原文で、Calvin Sun looks at で目の位置を振り、Do you use too many words when you write? の疑問文でまた振り、If so,で戻し、you waste your time and your readers’ time.で、自分を外から見させ、You also make your writing less effective and impressiveで自分の行為を反省させ、Below are 10 examplesで、それに続く部分にいざなうという、そういう奥行きが全部消されている。読み手は、原文ではアチコチにいざなわれて飛び回るのに、訳文では、微動だにしない。。

そういうペタペタのフラットなトーンがIT系というか、マニュアルを彷彿とさせるのではないでしょうか。軽妙なエッセイがマニュアルに化けた瞬間を見たような気がします。

投稿: | 2009/03/04 21:39:22

> IT翻訳がやり玉に挙げられることが多い
> IT翻訳に限った話じゃない

そもそも、良い翻訳という話なら IT 翻訳でもそれ以外の翻訳でも基本は変わらないはずですしね。が、それでもなおこの文章の IT クサさが...という話をさらに書こうかなと思ったら、Sakino さんがコメントでうまくまとめてくださいました。

投稿: baldhatter | 2009/03/04 22:07:06

> どこまでいっても、主体(あるじ)は、アナタ。

そうそう、そこなんです、まさに。
いわるゆマニュアル翻訳口調って、「(ユーザーが)~すると、(ユーザーが)……できます」ばっかりで、

> 目の位置を振り
> 自分を外から見させ

というような自在な視点の移動を、むしろ避けようとしますよね。

原因はいろいろ考えられますが、もしかすると「You や User のような主語は訳さない」とか「無生物主語を使わない」というルールを杓子定規に運用してきたせいで、「主体を考える」ことがおろそかになっている、という可能性があります。

「使用方法」みたいな文脈に限定すればその方針も判らないではないんですが、それが習い性になってしまうのがコワい。

投稿: baldhatter | 2009/03/04 22:21:03

 もしかすると、この訳文の問題点は、そうした「自在な視点の移動」の欠落の方かもしれません。その部分が欠落していなければ、多少似たような言い回しが繰り返されようが、まわりくどかろうが、なんとかなる。
 というか、その部分が欠落していなければ、視点の移動に応じて、それぞれに即した言い回しがついてくるはず(=そうでないから繰り返しになっている)。
 こうした視点の移動というのは、文章の構成として真っ先に意識的に読み取られねばならないことがらですから、(エッセイなのに)いわゆるマニュアル翻訳口調になってしまうというのは、文章の構成が読み取れていないということなんだろうと思います。

投稿: | 2009/03/05 2:19:05

「自在な視点の移動」の欠落が根本的原因……そうかも。鶏と卵で、視点移動が欠落してるから積み上げ方式でいいと思っちゃうのか、積み上げ方式をするから視点移動が(翻訳作業において)念頭から外れるのか、どっちなのかよく分かんなくなってるっっていうのはあるかもしれませんが。

投稿: Buckeye | 2009/03/05 10:56:02

Sakino さん、Buckeye さん

> 「自在な視点の移動」の欠落が根本的原因

この手の訳文をいろいろ見てきた経験から、たぶんそこなんだろうと思い至りました。鶏/卵ではありますが、基本的には

> いわゆるマニュアル翻訳口調
の翻訳を一定年数繰り返してきたせいで、

> 視点移動が欠落
しちゃうのだろうと思います。

もちろんこれは IT 翻訳者さんが悪いのではなく適材適所ということに過ぎず、視点移動が自在な人がそのままマニュアルを訳すと逆に用途に合わないことになります(現状の "マニュアル翻訳口調" はいつまでも野放しでいいのかぁという問題は別にして)。

投稿: baldhatter | 2009/03/05 11:32:46

 ちなみに、このあたり、「訳す」段階のはなしではなくって、「読む」段階のはなしかもしれませんね。大抵の文が、「主体(あるじ)は、アナタ」というふうに★読めて★しまうという……。

 形式主語が大抵は明示されている英語側を読んでいてこの状態なわけですから、日本語側を★読む★ときの「主体(あるじ)は、アナタ」的解釈率は、さらに高いと考えねばならない。

 うぅん、たしかに、仕事のジャンルごとに、仕事で要請される内容もいろいろちがいそうです。

投稿: | 2009/03/05 12:13:50

> 「読む」段階のはなしかもしれませんね

その要因も大きいと思います。インプットが適切でなければアウトプットがまともになりようがありません。

訳文の敬体と常体をあらかじめて指定されている場合も、読む段階でそのつもりで読まないと所定の文体になりません。

投稿: baldhatter | 2009/03/05 13:45:12

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