# 専門用語と一般語、そして新語
Buckeye さんのエントリに立て続けにトラックバックしてしまいます。
リンク: Buckeye the Translator: 専門用語と一般的な単語の訳
何やら挑発されているような気がするくらい、お題がタイムリーなんですよね、これが。
専門用語のほうが始末がよくて、一般語のほうが翻訳の苦労が多い、というのは Buckeye さんのおっしゃるとおり。
意味は一つではなく、多様というと点がたくさんあるイメージになるが、実際には面で表されるようなイメージであり、その境界が人によって微妙に異なるというのが現実だろう。/これは翻訳の原語側においてもそうだし、ターゲット言語側においてもそうだ。
この不定形のイメージ枠を、まず原語側で捉えるために欠かせないツールが英英辞典。ターゲット言語側で絞り込むためのツールが(私の場合は日本語の)類語辞典です。
でも、専門用語でも「新語」となると、またこれとは違う次元の苦労があります。
英語の用例を調べてもほとんどヒットしないような用語なら、それはさすがにクライアントに報告すれば済みますが、いちばん困るのは英語ではいくつも用例が見つかり、その語義もちゃんと判るのに、日本語の訳出例がまったくない、あるいは信頼性の低いソースしかない、という場合です。つまり、業界でしばらく前から使われ始めているが、まだ定訳が生まれるには至っていないという段階。
その典型的な例が、私家版英語辞典で最初にエントリした breadcrumb という単語でした。今ではどうやら、そのまんまの訳で「パンくずリスト」という訳語がだいぶ定着しているようですが、当時は処理にかなり苦労しました。
同じく私家版英語辞典にエントリしている out-of-the-box などは、英語のまま使われている例もあり未だに決定的な定訳がありません。これなどは、どうも英文中での用法がずいぶんアバウトになってきている気配もあり、固定的な訳語では対応できない例だろうと思っています。
でも、こういう新しい用語や表現に出会うのも、実は翻訳をしている楽しみのひとつだったりします。
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コメント
長髪(^^;)、もとい、挑発しているわけではないんですが……影響は受けてるかもしれません。baldhatterさんとことか、読んでるわけですから。
実は、ずっと前から書こう、書こうと思って少しずつ書いてきたエントリーがだいたい書き上がったんです。そしたら、その前にこれは言っとかなきゃって思うこととかを思いだしてしまって。というわけで、こんな感じのエントリーがもうちょい、続く予定っす。
閑話休題
そうそう、新語もありました。これも、工夫の余地があって楽しく苦しめる部分です。
baldhatterさんは英英辞典と類語辞典でイメージ枠をとらえると書かれてますけど、そういう作業をした上で、Googleとかの検索で用例をずらずらと眺め、とらえたイメージ枠の適用範囲などをチェックするというのもありますよね。
投稿: Buckeye | 2008/09/25 6:51:07
> 影響は受けてるかもしれません
私も最近、いろいろな翻訳者さんのサイト/ブログから刺激を受けています。こういう形で相互作用が生まれるのもネットの長所のひとつです。
> こんな感じのエントリーがもうちょい、続く予定っす
楽しみ~ :)
> Googleとかの検索で用例をずらずらと眺め、とらえたイメージ枠の適用範囲などをチェックする
はいはい。Google をどう使うかという話もせにゃいかんのでした(方法論としては Buckeye さんのエントリで言い尽くされている感がありますが)。
おっしゃるとおり、Google もどちらかと言うと、最終的な訳語の拠り所にするというよりは、イメージ枠の固定に利用することのほうが多いようです。
そうそう、一般単語の訳を模索していていちばん嬉しいのは「辞書には載っていないが、自分で間違いなくこれだと確信できた訳語を当てはめられたとき」です。たびたびあることではありませんけど。
投稿: baldhatter | 2008/09/25 15:14:12
実は、「この不定形のイメージ枠を、まず原語側で捉えるために欠かせないツールが英英辞典」の部分、大型英和辞典というのがその役目を果たして、英英辞典にあまりあるというはなし、ポロポロと書いたことがあったと思うのですが、そういえば、ちゃんと書いたことがなかったのでした。
日日辞典として、和英辞典を使うと、意味範囲の広がりがよくわかるのと同様、英英辞典として英和辞典を使うと、やはり意味範囲がよくわかるんだと思います。これ、ふつうの英和辞典の読み方とちょっとちがうので解説が必要なのかもしれないですが、ざっと書くと、訳すとちがう訳語となる単位で、それぞれの意味の塊が区切られているので、英語の発想で英語内で意味範囲を区切ったのより的確だったりすることが相当例あるということです。ある単語の意味のまとまりを把握するのには、原理的にいって、英英辞典より適しているというか、せっかく日本語が読めるんだから、英英辞典と一緒に使いましょうよというか、そんなふうに思います。(日日辞典を引くときに、和英大辞典にもぱっと目を通すのと同じように。)
類義語を出発点としているWordNetは、その意味で(説明をはしょってますが)、英和辞典ととても相性がいいです。、
投稿: Sakino | 2008/09/25 15:17:15
> 訳すとちがう訳語となる単位で、それぞれの意味の塊が区切られているので、英語の発想で英語内で意味範囲を区切ったのより的確だったりすることが相当例ある
よくわかります。この語義区分のしかたって、英英と英和で一致していることはまずないのですが、実はその区分の違いが手がかりになることもありますよね。その部分に、原語とターゲット言語とのズレ(語義のズレ、ときには文化のズレ)がよく表れますから。
> 類義語を出発点としているWordNet
WordNet は私も愛用しています。イメージをつかみやすい定義が多い。
投稿: baldhatter | 2008/09/25 15:37:58
ええ、そのズレって、そのズレてる両言語間を往き来している者にとっては至福であり厄災であるわけですが、それを先人の作業によってササっと確認できるのは、なんともありがたいというか。
このあたり、ちゃんと具体例を出しながら、それぞれの辞書がどうやって作られているのか、というアーティクルを書こう書こうと思っていて、まだ、具体例のチェックもしていなかったりします。
1960年代はじめに国語辞典をつくる現場をかいまみちゃった者としての責任は感じてるんですが、なかなか。
あと、英語側でことばの仕事をしている人たちに、WordNetについてインタビューしてみたいところですが、このあたり、誰にきくかで、大きくちがいがでそうで、怖くてきけなかったりしそう^^:。
投稿: sakino | 2008/09/25 19:48:20
> ちゃんと具体例を出しながら、それぞれの辞書がどうやって作られているのか、というアーティクルを書こう書こうと思っていて
それはかなり楽しみです。急かしませんが、楽しみにしています。私も私家版英語辞典で次にエントリを書くときには、少しその辺を意識してみようかな。
> 1960年代はじめに国語辞典をつくる現場をかいまみちゃった
えぇっーと、Sakino さんとの年齢差は承知していますが、60 年代?? もしかしてモーツァルトみたいな?
私は 1980 年代中頃に、英和辞典の編集現場(の末端)に携わっていました。
> このあたり、誰にきくかで、大きくちがいがでそう
言葉に関しては、informant による差はでかいですからねー。
投稿: baldhatter | 2008/09/25 20:13:27
ほんとにオチビのころです。私は、妙に記憶がいいタイプの子どもだったので(それだけはモーツァルト的といえるかも)。岩波国語辞典のうしろの方をめくると、実父(故人)の名前がでてきたりします。確かめたわけじゃないですけど、若いときのアルバイトじゃないかしら。あとは、「ひまわり」(だったかな)の付録の辞書(松島ともこさんが推薦文を書いてましたよ)とか。
たたみにねっころがるか、あぐらをかくかして、仕事をする人でしたけど(今から考えると、たたみの上以外じゃ無理かも)、研究社の大和英は、いっつも手前の方においてあったと思います。たたみじゅうにいろんな辞書をひろげて、用例カードを積んでましたねぇ。Jammingで串刺し検索して、ウェブでググって用例をチェックしてっていうのと同じだっていったら、用例の信頼性がちがう!という文句が出るのかもしれませんが、英語だったら、サイトをしぼって検索できますから、翻訳者だって、ちゃんと信頼性の高い用例を拾ってしごとをしていますよね^^;。基本は、おんなじなのではないでしょうか。
「英和辞典の現場」のはなし、また聴かせてください。
というわけで、年齢差、あんましありませんってば^^;。←これがいいたかった^^;。
投稿: Sakino | 2008/09/25 22:44:40
わっ、ほんとに 60 年代の話なんですね。スゴい。言葉というものに向かい合っている年季が違う。
> 年齢差、あんましありませんってば
はい、それはもちろん :)
投稿: baldhatter | 2008/09/26 21:33:23