# 阿呆なスタイルガイドを斬る、その1
「と」と「および」
A 社のスタイルガイド - and は「および」と訳す
B 社のスタイルガイド - and は「と」と訳す。「および」は使わない
「と」と「および」は使い方がいろいろと違う単語のはずで --- 詳しいことはここでは省きます ---、それをこの両社のように決めつけて運用した日には、クライアントも翻訳者も不幸になるだけです。
産業翻訳の文章で不自然な日本語がなくならないことの一因が、「スタイルガイド」にあるというのは、多くの翻訳者さんが指摘しています。私も Side B でややまとまったことを書き(禿頭帽子屋の独語妄言 side B: ♭翻訳スタイルガイドについて)、皆様からいろいろとコメントをいただきました。
そんな折、ちょうどマスナガさんがこんなことを書いていて、
リンク: 言葉の順番をちょっと変えるだけでわかりやすい表現になる場合 - 頭ん中
ほぼ同時に jacquelinet さんもこんな疑問を提示していたので、
リンク: [Linguistic Reviewerの疑問](a + b)c = ac + bc?
私の知っている範囲で困ったスタイルガイドの実例を挙げてみようと思って、まず取り上げたのが上記の話です。
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スタイルガイドの不幸な運用は、おそらくほぼパターンが決まっています。
1. クライアントのルールが、誤った認識に基づいている、合理性を欠く、または説明不足である。
2. 翻訳者(および翻訳ベンダー)がこのルールに過剰に追従する。
たとえば、and の訳を「および」と指定しているあるクライアントの場合は、jacquelinet さんの言う (a + b) c という形のフレーズを想定していた節があります。つまり、そのクライアントの発想では、
「追加」ボタンと「削除」ボタン……△(冗長だと勝手に思ったのか?)
「追加」および「削除」ボタン ……○
「追加」と「削除」ボタン ……×(並列関係が曖昧)
ということだったのでしょう。であるにもかかわらず、補足説明も例文もなく上記のルールだけポンと出してくる。
だからといってそれを鵜呑みにするのは翻訳者の怠慢です。明らかにおかしな表現ルールは、翻訳者の責任として堂々と無視していいと思います(もちろん、ちゃんとした日本語になっていることが当然の前提で)。
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» 「and、or」と「と、か、や、も、……」 トラックバック Buckeye the Translator
andとorの訳し方について、少し検討してみよう。 「産業翻訳とライティング」というブログに“「and」と「or」”というエントリーがあった。このエントリーがもともと意図した部分と違うことは分かった上... [続きを読む]
受信: 2008/09/26 6:56:14
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コメント
官庁の公文書や法律文章みたいです。
投稿: 竹花 | 2008/09/22 15:35:08
ガイドの内容もですが、なんのためのガイドなのかを考えずに機械的に従う運用者にも問題がありそうですね。
ウィキペディアでも、この種の「方針」を鵜呑みにしたり盾に取ったりしてトラブルになることがしょっちゅうです。
投稿: みっち | 2008/09/22 18:19:07
> 官庁の公文書や法律文章みたい
ですよね、やっぱり。
> トラブルになることがしょっちゅう
ヒトの社会って難しいですね。ルールがないならないで困るし、あったらあったでトラブルの元になるし...。なんて、そんな大袈裟な話ではなかったのですが、共通点は多そうです。
投稿: baldhatter | 2008/09/23 17:12:30
戦前のドイツ陸軍では参謀をみっちり仕込んで意識共有を優先し、「一を聞いて十を理解する」ようにしてました。ルールを文化にしてしまうというのでしょうか。
投稿: 竹花 | 2008/09/23 19:25:41
> ルールを文化にしてしまう
文化とはある意味でルールの集積であり、その運用の適確さが文化の成熟度と言えます。そう考えると、産業翻訳という業界の文化的成熟度が低いのかもしれません。
投稿: baldhatter | 2008/09/25 14:59:13