# TRADOS - タグをめぐる話
Trados を使うと少なくとも処理が簡単になる点として、タグの処理を挙げることができます。HTML や XML などのいわゆるマークアップ言語系ファイルをネイティブに扱う場合には、たとえばテキストファイルのまま扱うより、タグを壊してしまう危険性がはるかに少なくなります。
もっとも、この恩恵を受けるのも結局はローカライズや IT 翻訳が中心になるわけで、それ以外の分野には特にありがたみのない機能だとも言えます(IT 以外の分野でも FrameMaker マニュアルは人気があるようで、それをコンバートした STF(RTF)ファイルというのも Trados が得意とするファイル形式のはずなのですが、これについてはまたいろいろと問題点があるので、その話はまたいずれ)。
ここで書きたいのは、そのタグ処理機能のことではなく、ある翻訳者さんとのマークアップ言語ファイルをめぐるやりとりについてです。
初めにお断りです。ときには意外と狭い業界だったりもするので、もし以下の話にお心当たりのある方がいらっしゃいましたら、もう時効ということでご容赦いただきたいと思います。
私が翻訳会社に勤務していた頃の話です。あるとき非常に優秀な翻訳者さんの応募があり、もちろん即採用となってさっそくジョブを打診したのですが、初回からいきなり断られてしまいました。
依頼内容は HTML 形式ヘルプの翻訳だったのですが、「タグ処理その他、翻訳に直接関係のない "作業" が多すぎる。私は翻訳者なので、純粋に文章の翻訳なら引き受けるが、それ以外は引き受けられない」というのが、受注不可の趣旨でした。
私も社内の PM もこの反応に最初は驚いたのですが、よく考えてみれば、翻訳の腕に自負があってそれなりの実績も残している人なら、こういう方針を貫くのも当然といえば当然なのでした(と同時に、ローカライズ業務というものの認知度の低さを感じる出来事でもありましたが)。
★HTML や XML のタグを理解したうえで、その処理も翻訳者が行う★
のかどうか、実はローカライズベンダーの中でもその方針は分かれているようです。翻訳者にはタグをすべて削除したファイルを渡して翻訳だけしてもらい、戻ってきた内容を社内でマークアップファイルに戻すというベンダーもあれば、タグ処理を原則的にすべて翻訳者に委ねるというベンダーもあります。比率としてどちらが多いのか、私は知りません。
私が在籍していた会社はたまたま後者だったので、タグ処理(や関連の検証作業)を翻訳者が行うのは当たり前と思っていましたし、私はそういった作業が嫌いではなかったのですが、ローカライズ以外の翻訳者さんから見れば、「そんなのは翻訳者の仕事じゃない」というのも、しごく当然の意見だろうと思います。
ローカライズというのがそれくらい特殊な世界であって、Trados が現在もっとも真価を発揮しているのがその特殊な業界である、ということは承知しておくべきでしょう。
10:14 午後 翻訳・英語・ことば TRADOS | URL
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TRADOSがらみの話題として、ふと思い出したことがあったので書いておく。 [続きを読む]
受信: 2008/07/20 13:22:01
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コメント
baldhatterさん、こんばんは!
そうなんですよね。
私も初めはこのタグの処理、
「ぜったいこんなの翻訳者の仕事じゃない!」
って思ったんですが(まさに"作業")、
- タグの位置を訳文に合わせて移動させなければならない
- タグの情報からその文章の役割を判断して訳す必要がある
- タグやプレースホルダが主語や目的語になる場合には、これらがなければ訳文が完成しない
などということを冷静に考えると、
「翻訳者しかできない」とまではいかなくても、
「翻訳者がタグの処理をするのがベスト」
なんだろうなぁ~、と思います。
それでもやっぱり、内部タグがたくさん入った案件が送られてくると、おもーい気分になりますし、逆にタグの少ないすっきりとした原文が送られてくると、ある程度純粋に翻訳に集中できるのでうれしいですね。
> 翻訳者にはタグをすべて削除したファイルを渡して翻訳だけしてもらい、戻ってきた内容を社内でマークアップファイルに戻す
翻訳会社側でこの作業をしたら、マークアップを挿入して初めて「この訳文では据わりが悪い」ということも起こるんじゃないのかなぁ?と思ったりもするのですが...。
「タグ処理その他、翻訳に直接関係のない "作業" が多すぎる。私は翻訳者なので、純粋に文章の翻訳なら引き受けるが、それ以外は引き受けられない」
将来一度は言ってみたいセリフです)^o^(。
投稿: めぐり | 2008/07/20 0:02:03
タグがたくさん入っている案件は、たしかに、テキストファイルのママだとちょっとうざい感じがしますね。
ウェブページの翻訳はときどきやるので、私は、htmlのタグは秀丸のマクロで選択し、別のマクロで訳文に貼りこむという形を取っています(使ってるマクロは公開してます)。選択・コピーの際にタグに触らないので、一部が切れてしまうとかうっかりタグを壊してしまうとかっていうことはほとんどないんですが、閉じ側のタグをコピーし忘れるという失敗は、ときどき、やります。最終確認でどうも書式がおかしいと思ったら、たいがいは、閉じ側タグのコピーし忘れです。
最初に両側のタグをコピーしてしまい、間に訳文を入れていくという形にすれば忘れなくなるのですが、今度は、タグとタグの境目にカーソルを持っていくという作業が発生し、そこでミスってタグを壊すおそれがあって、どっちもどっち。
翻訳者の業務範囲がどこまでかというのは……人によって感覚が違うでしょうね。
私は、編集作業まで含んでいても気になりません。「翻訳」に入らない部分だとは思いますけど、案件全体として、「翻訳」が主であれば「翻訳者の業務」であっておかしくないと思いますから。ただ、私が提示する単価はあくまで「翻訳」の単価なので、編集などの付帯業務も行うなら、その分の料金は別途、請求しますけど。
余談ながら……翻訳と編集作業だけでなく、日本語版のデザイン、印刷、製本までをセットで請け負った経験もあります。もちろん、デザインから印刷・製本は、それぞれのプロの人たちにやってもらいました。
投稿: Buckeye | 2008/07/20 6:39:49
今日の記事をブログに書いてから、baldhatterさんのこの記事に気付きました。内容が関連しているのでTBさせていただきました。
投稿: Jack | 2008/07/20 13:24:30
めぐりさん、拙ブログへのお越しとコメントをありがとうございます。よろしくお願いいたします。
> 内部タグがたくさん入った案件が送られてくる
特にイヤなのが、STF ファイル(FrameMaker マニュアルを変換生成した rtf ファイル)で意味のない修飾タグが重なっているパターンです。
<:fc 1><:/fc>あいう<:fc 1>えお<:/fc>
みたいな感じ。
> マークアップを挿入して初めて「この訳文では据わりが悪い」ということも起こるんじゃないのかなぁ?と思ったりもする
頻繁ではないにせよ、そういうことはあると思います。単純な例で言うと、原文は強調に使われているボールド指定を訳文でも維持するスタイルの場合、訳文のどこにタグを戻すか困ったりしそうです。
投稿: baldhatter | 2008/07/21 10:58:58
> 日本語版のデザイン、印刷、製本までをセットで請け負った経験もあります。
さすがに製本までではなくても、FrameMaker に戻して PDF ファイルまで仕上げる DTP 行程まで込みで受注できる翻訳者さんはいらっしゃいますね。
ツールって、結局はこの Buckeye さんのお話みたいなことが多かれ少なかれありますね。
つまり、ツール A と B で同じ機能を実現できるとき、それをもうちょっと手軽にできるようにしたツール X が出現する。IT ベンダーが売り文句にする「統合アプリケーション」なんかも、おおむねそういう世界です。
でも、たいていは、より単純なツール(の組み合わせ)の方が副作用が少ないわけです。そうなると、副作用に目をつぶって利便性を優先するか、副作用を排除すべく単純さを維持するかという二択になります。いちばんマズイのはこの副作用を自覚できないケースだというのは Buckeye さんが繰り返し警告しているとおりです。
投稿: baldhatter | 2008/07/21 11:04:44
Jack さん、TB ありがとうございます。
後ほど当該エントリにもお邪魔しますが、私、PowerPoint 翻訳はどちらかというと嫌いです。
投稿: baldhatter | 2008/07/21 11:12:15