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2007.07.13

# なんでも enable

長く翻訳をしていると、出来があまりよろしくない原文に遭遇することも珍しくありません。

中には、ライターが英語ネイティブではないという場合もあります。だいぶ前のことですが、ドイツ語の分離動詞と同じ構造を使っている、かなり手強い英文を見かけたこともありました。が、それより始末が悪い --- 翻訳の段階で苦労する --- のは、英語ネイティブでありながら、あまりライティングのレベルが高くない文章、つまり文法的に間違っているわけではないが文章力の低い、「下手な」文章です。

製品の特徴を表すときは enable の一点張り、などというやつがその典型と言えます。

IT 系翻訳の場合だと、ヘルプやマニュアルの文章はむしろ定型化されているので、文章レベルの差はある程度の範囲に収まっています。けっこう差が出てくる --- ライターの程度が知れる --- のは、プレスリリースとかホワイトペーパー、ブローシャなどの、いわゆる Web マテリアルの場合です。

この手の文章には本来、訴求力、読者をひきつける文章技術が不可欠。にもかかわらず、こうした文章で頻繁に感じるのが、語彙力・表現力の乏しさだったりするわけです。

文章の目的上、製品をアピールしたい気持ちは判るんですが、

<製品名> enables you to...

というのを何のためらいもなく繰り返していたりすると、つい「アタマ悪~っ」と毒づきたくなります。もっとヒドイのになると、

<製品名> enables ......, enabling you to...

などと、分詞表現にまで enable を続けて繰り返すという芸のなさ。

語彙や表現が貧弱な英文は、深く考えずに翻訳してしまうと、その貧弱さを訳文でもそのまま再現してしまうことがあります。もちろんそれも、ある意味では忠実な翻訳ということになるのですが --- そして、この辺が翻訳流儀の大きな分かれ目だったりもするのですが ---、少なくとも小生が関わっている範囲では、そういう忠実さは必要とされていません。僭越ながら原文の下手さを訳文でカバーさせていただく、ということになります。

02:40 午後 翻訳・英語・ことば |

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コメント

文章力が低くて下手な文章なら内容が理解できればなんとかなるんですが、文法が怪しくて何が言いたいんだかわからんという文章は想像力/創造力を駆使するしかありません。
今までで一番手強かったのはスウェーデン人の書いた文章。もしかしたら英語力不足で理解できないんじゃないか、と思ってしまった自分も情けない……。
「原文の拙さを訳文でカバー」できるレベルを目指し、日々努力を重ねております。

投稿: Ado | 2007/07/13 18:15:36

海外ドラマ専門のCATV局にいた友人から聞いた話。ある翻訳家さんにドラマの要約をお願いしたところ、内容が非常に面白かったので、大ヒット間違いなしと踏んで放送したそうです。ところが、案に相違してまったく受けなかったとか。その方はドラマのつまらなさを補って余りある名文を書かれたようです。名翻訳すぎても困ることがあるんですね。

投稿: Ado | 2007/07/13 18:23:25

>僭越ながら原文の下手さを訳文でカバーさせていただく、ということになります。

さすがです!機械翻訳にはない付加価値ですね。

投稿: 竹花です。 | 2007/07/13 22:41:07

日本語では言葉の繰り返しを、単調とか稚拙ととらえられることが多いようですが、英語の場合はあまり気にしないのでしょうか? 
contain、includeも便利な言葉なようで、訳文作りに頭を悩まされることが多いです。
でも逆に、あまりにも表現豊かな文章でも、何を言ってるのかさっぱりわからないことがあります。あ、それはこっちの読解力がないってことね~。
帽子屋さんの文章力は折り紙つきです。ひそかなファンの一人でもあります。

投稿: あやや | 2007/07/14 8:56:37

> 一番手強かったのはスウェーデン人の書いた文章

そうそう、非英語ネイティブの中でも、アジアとかインドではなくヨーロッパ人が書く英文の方が始末悪いことありますよね。なまじ似ているものだから、母語に引きずられるんでしょうね。

> 機械翻訳にはない付加価値

Value Added Translation、略して VAT。

> contain、include

そのとおりですね。意地でも「~含まれる」は避けたくなります。その他、provide も濫用されがちです。

投稿: baldhatter | 2007/07/14 13:50:51

>非英語ネイティブの中でも、アジアとかインドではなくヨーロッパ人が書く英文の方が始末悪いことありますよね。

私の場合はドイツ人の英文で至極ラクだったことならあります。今まで出会った最低線といえば、日本未公開の雑多なアジア映画(有料チャンネル用)の紹介文で、まさに
>文法が怪しくて何が言いたいんだかわからん
怪しいどころか、動詞のないセンテンスという、模試の英作文採点時以来の珍品まで混ざってました。でもとにかく訳さにゃならんので
>想像力/創造力を駆使するしか
ですね。救いは、「誤訳だ」というクレームをつけてくる人が誰もいないと確信できたことでしょうか……。

投稿: ハーブ | 2007/07/14 20:09:41

> 日本未公開の雑多なアジア映画

素材がそれっていう時点で、ずいぶん怪しげな気がしますね。

投稿: baldhatter | 2007/07/15 13:39:08

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