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2006.06.25

# 映画『ココシリ』

ココシリ。英語表記は "Kekexili"、中国語だと「可可西里」。

地球上にはときどき、「自分は前世ここに生まれ育ったのではないか」と思えるほどに理屈ぬきの吸引力を持つ風景というものがあって、小生にはこの辺り --- 中国奥地とかチベットの、富士山より海抜の高い世界 --- がどうもそれに当たるようです。

容赦なく厳しい自然の中で「生きる」ことの残酷さと美しさ。

平素の自分たちが、高度に都市化した社会でいかに「生かされている」かということを実感させられる映画 --- 一言でまとめるとそうなるでしょうか。

映し出される世界が小生の肌に合うというだけでなく、監督の Chuan Lu は、若手(1970 年生まれ)にもかかわらず相当に練達した映画人だなと思いました。訴えたいこと、描きたい世界を厳として持っていながら、しかし決して声高にならない。凄みはあるがどこか静かなタッチを貫いている。小生にはたいへん好もしい映画でした。

(以下、わがすながらネタバレ含みます)
ストーリーは、ココシリと呼ばれる辺境でかつて横行したチベットカモシカの密猟と、それを防ごうとする山岳パトロールの姿を中心に進みます。ちなみに、これらは実話に基づいています。

冒頭すぐの葬儀のシーンが導入として巧みでした。
隊員の遺体を囲んだ男たちがチベット語(たぶん)で経を唱え、微妙にずれた複数の音程が不思議なうねりを持って流れます。しかも、そのすぐそばには、死臭を嗅ぎつけたハゲタカが群れている。そう、あの一帯なので葬儀といえば鳥葬なのでした。

これだけでもう、観る者はあの高緯度文化圏の独特の雰囲気に引き込まれます。

その後も、密猟者を追うという一点が常に観客の緊張感を維持していくわけですが、当然ながらそれは単なる追跡劇では終わりません。

零下 20 度という酷寒、砂嵐、吹雪。どこにあるか判らない流砂...そんな過酷な世界で、追う者も追われる者も等しく「生きて」いる。「生きて」いかねばならない。パトロール隊長 "リータイ" の視点は、その事実を当然のこととして捉え、都会から来たカメラマン "ガイ" の視点 --- つまりこれが、ヤワな都会人種である観客にいちばん近い --- は、同じ事実をときとして抱えきれない。

ただし、同じような設定にありがちな、集団のリーダーと部外者の衝突という図式はほとんど出現しません。ガイも --- おそらくは彼の父がチベット族であるという設定ゆえに --- この世界の厳しい現実を、目の前にある自然を受け入れる。

残酷なまでの自然を前にしたとき、あるいその厳しさに人が抗してゆかねばならないときに現代人が感じてしまう、その「抱えきれなさ」がこの映画の要の一つです。

(余談ながら、邦画『もののけ姫』のテーマも、実はこれに類する「抱えきれなさ」だったはずなのだが、現代日本人にはもはやそれが通用しなかった節があります。)

その自然を映すカメラのカットも、まだいくぶんベタな印象はあったものの、監督の意向をよく反映した落ち着いた運びでした。

こういう映画がまだ出てくるのは、中国という巨大な文化圏の懐の深さでしょうか。監督 Chuan Lu には、今後も注目したいと思います。

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ところで。

俳優はみんな中国かチベットの方たち --- その他大勢はきっと俳優でもない現地の人たちという気がしますが、調べられるデータがない --- で、どの顔も実にいいのですが 、それとは別のレベルでは「○○に似てるなー」とつい口走りたくなるくらい、やはり日本人と共通の顔立ちをしてますねぇ。

山岳パトロール隊長役の Duobuji(この人だけが普通の俳優で、後はみんな映画初出演)は、チャウ・シンチーを真面目にしたような顔ですが、役所広司にもちょっと似てる。都会からやってくるカメラマンの Zhang Lei は妻夫木。隊員の一人リウは岸谷五郎で、その恋人は、若かりし頃の大谷直子(ちょっと違うかな)。

12:44 午前 映画・テレビ |

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