以下、問題と思われる箇所の引用と、小生のコメント(★)です。なお、引用中の太字は原文ママ。
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問題点その1: 主観と推断
【引用その1】
〜修正箇所が400箇所以上もあると聞くにいたって、「絶対におかしい」と確信した。なぜなら私は『シス』字幕に、そこまで問題があると感じなかったからだ。
★「問題があると感じなかった」---冒頭から主観全開なのは、いっそ見事と言えようか。改善連絡室などが、今までどんなにこの手の個人的な「感じ」を排し、可能なかぎり客観的な主張を心がけてきたか、などということはもちろんご存じないのだろう。そもそも、劇場版のあの字幕で問題を感じなかったと宣言できるとは...(それが、後段の戸田氏擁護にもつながっているらしい)。
【引用その2】
しかし『シス』は〜特定個人への感情的な反発が出発点になっている。(中略)より多くのファンを抱えるSWでも同じ流れを、という対抗意識もあっただろう。
★認識不足と独断と推断だけに基づいた文章のお手本みたいなパラグラフである。
「特定個人」とはもちろん戸田氏のことだが、「感情的な反発」とか「対抗意識」とか言うその主体がよく判らない。SWファンのことなのか、DVD版監修者のことなのか。この断定口調にこそ、むしろこの筆者が何に対してかは知らぬが「感情的な反発」を抱いていると憶測したくなるのは小生だけではないだろう。
※この筆者がよほどDVD版監修者を目の仇にしている---読者のあずかり知らぬところで---らしいことは、同カラムの「〜公共に意見表明する際のプロトコルさえわきまえぬファン〜」などにも端的に表れている。「字幕をめぐる問題を提示する」と称する特集記事をそのような私情で汚していることが、すでにまったくの論外。
【引用その3】
〜『LOTR』『ハリポ』と両ファンタジーに監修者を必要とした翻訳者なら、当然スペースファンタジー、SWにだって必要だという前提にもとづくものだ。
★勝手に断定しているが、これも認識不足が甚だしい。監修・修正が必要なのは、「スペースファンタジー、SW」だからではなく、ジャンルとは無関係に誰が見ても奇異な日本語が続出するからだ(蛇足ながら、引用部分のこの日本語のねじれもかなりなもの)。
【引用その4】
こうして劇場字幕の出来の善し悪しの判断や評価と関係なく、『シス』DVDに監修者をつける動きは、彼女が字幕担当者となった時点ですでに決まっていたといえる。
★「善し悪しの判断や評価と関係なく」というのも筆者の独断。どれだけ不評だったか知らないのか、故意に無視しているのか。そんな独断と推断だけしかないパラグラフを、「こうして」などと受けて「〜といえる」と書けちゃうあたりは、論理的思考能力の欠如が歴然である。
問題点その2: 結局は権威主義の、字幕改善運動に水を差す論旨
【引用その5】
ところが『シス』監修者はそのどれにも属さず、監修以前に何の実績もなかった。
★字幕改善運動をここまで推し進め、LotRでは(監修と名こそ付かないものの)DVDのみならず劇場公開版にまで意見を提示できるようになった改善連絡室にも、「監修以前の実績」などありはしなかった。
【引用その6】
それ(=責任)こそがプロにつきまとうものであり、責任を問われぬアマチュアが立ち入るべき領域ではない。(中略)〜とても不健全で無責任な意識の集合体が、ネットの中に出来上がってしまう。
★引用部分前段については、「素人が口を出すんじゃないわよ」という某氏の発言と同レベル。「プロ」が責任を持った仕事をしていないという明白な事実があるからこそ、改善連絡室という、いわば「アマチュア」の集団などが動いているのであって、それを否定する物言いは、現状の字幕制作態勢の擁護としか聞こえない。
「無責任な意識の集合体」がネットで醸成されやすいのは確かだ。だが、連絡室主導の署名運動がそれとは完全に一線を画していることは、すでに広く知られているはず。
【引用その7】
さて、ここまでの事情が飲み込めれば、『シス』のネットでの感情的な字幕批判は出発点から的はずれなのだから〜
★もちろん、ぜんっぜん飲み込めない。「感情的な字幕批判」とは、いわゆる「なっち節」バスターのことか? その「なっち節」批判ですら、個人に対する感情的な糾弾という域をすでに超え、いかに映画の鑑賞を阻害するかという正当な修正要求として多くの実例があがっているという認識も...ないんだろうな。少なくとも、筆者本人よりはよほど「感情的」ではないと思うのだが。
【引用その8】
すでに圧力団体やクレーマーに変貌してしまっている、うるさいネットの意見を無視しようものなら、数を頼りに抗議の声が〜。
★このくだり、主語がまったく不明なので、映画配給会社やDVD制作会社を非難したいのか、ファンやDVD版監修者を攻撃したいのか、要旨は曖昧だ。が、読みようによっては字幕改善運動に対する相当の中傷ともとれる言辞だ。字幕を真剣に良くしたいという層の広がりを、言うにこと欠いて「数を頼りに」とは。マーケティング的な見地からも、まったく失格な発言である(それ以前に、自分の日本語力を振り返ってくれ)。
問題点その3: 行き着くところは戸田氏擁護?
【引用その9】
まさに現代版の魔女狩りだ。(中略)彼女が大作・話題作を軒並み担当するのは、守秘義務と納期を守り、自己申告による修正や変更が少ないからで〜
★この辺りからはもう完全に、ただの---しかも低レベルな---戸田氏擁護になり果てている。「守秘義務と納期を守り」---そんなのは翻訳者・翻訳家として常識でい、バカやろう!(失礼)
究極の誤認は「自己申告による修正や変更が少ない」ことをプラスに評価している、その点に尽きよう。誤訳・珍訳が後を絶たないにもかかわらず自己申告がないというのは、本人がそうした誤りに気づいていないということだし、気づいても申告しないのだとしたらさらに悪質というものだろう(実際には、誤訳が報告されてからですら、それを認めている形跡がないのだが)。唐突な喩えだが、「自己申告による修正や変更が少ない」こと自体がプラスになるのだとしたら、世のシステム系エンジニアのどれほど多くが救われることか(彼らの仕事なら、バグがあれば申告の有無にかかわらずエラーになるはずだ)。
ついでながら「魔女狩り」という慣用句の使い方も、思い切り見当外れだ。非難に値する仕事をやらかしてしまった「プロ」の仕事を修正することの、いったいどこが魔女狩りか。字幕の話をする以上、日本語は正確に使おう。
問題点その4: 代案の出し方は改善連絡室を見習うべし
★DVD版修正箇所に関する個別意見には、頷けるものもある(You expect too much of yourself. の解釈とか)。が、その他はいずれも、改善連絡室での協議を通れば個人差の範囲として選外になりそうなものばかり。「重箱の隅つつきが続く」と評している本人が、同じ重箱の別の隅をつついているに過ぎない。以下、一例だけ。
I hate you.
hate は、"feeling of dislike" を表すかなり広義の単語なので、子供っぽい「嫌いだ!」もありだろうし、もっと激しい「憎む」もありだろう。いずれにしろ、翻訳者の個性と解釈で許容される範囲だ。だがこの筆者のように「大ッキライだ!」でもよい(←カタカナ)と言っておきながら、別案として「呪ってやる」を提示するというのでは説得力がない。どっちかにしてくれ。
ついでに言えば、劇場版「お前を憎む」→DVD版「あんたが憎い」という修正は---瑣末な部類ではあるが---悪くないと思う。「お前」は本来、同等または目下に対する二人称であって、師匠から憎悪の対象となったオビ=ワンを指すなら、「あなた」が転訛した「あんた」の方がいい(もっと憎悪が強ければ「お前」になるかもしれないけど。だからこれは翻訳者の個性の範囲)。
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『シス』DVD版字幕は、もちろん連絡室とは別のルートで修正されたものですが、蓋を開けてみれば多くのファンが納得している様子。それを、こんな形で「問題提示」しようとする、その意図がどうにも判らないのでした。
なにしろこの雑誌、"「中学生男子」感覚を爆発させた編集方針がウリ" と定義されている---「はてな」のキーワードより---くらいで、映画関係では一般にややキワモノ的存在とされているので、こんな超駄文でも掲載されちゃうんでしょうねえ。
ちなみに、小生はこの記事のライターである武田英明氏も、そこで攻撃対象となっている河原氏(エピ 3 字幕監修者)のことも、まったく知りませんでした。
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